「子どもの学習意欲は、所属感を感じることから」NPO法人まなびと(神戸)がつくる放課後の子どもの居場所とは

兵庫県の神戸市を中心に、放課後の子どもの学びの場をつくっている「NPO法人まなびと」という団体がある。
2014年に法人としての活動をスタートさせ、地域の子どもたちが通える放課後の居場所の運営を主な事業としている。学生ボランティアや社会人のメンターも含め、50名を超えるスタッフが関わっているのがまなびとの特徴だ。
まなびとを立ち上げたきっかけや、放課後の学びの場について代表の中山迅一(なかやま ときかず)さん(1984年生まれ)に取材した。
安心して過ごせる居場所が欲しかった学生時代
学生時代はサークルやアルバイトに没頭していた中山さん。個別指導の塾でアルバイトをしていた時に出会った一人の生徒が団体を立ち上げるきっかけになった。その生徒は勉強への意欲も成績も低くて、宿題も全然やってこない生徒だった。話を聞いてみると、落ち着いて家庭学習ができる環境ではないことがわかった。
この生徒と出会った時に、自分の子どもの頃を思い出したという。
「自分は高校進学の時期に、両親が離婚して母親に引き取られました。そのころは、家で勉強なんて全然できなかったんです。今日やったことを復習する以前にそもそも家が落ち着ける場所ではありませんでした。高校にもいけなくなりましたし、ずっと自分の居場所を探していました。だからこそ、この子のために何かしてあげたいと思ったし、アルバイトでの関わりだけでは限界があるとも感じました。」
自分にできることは何かを考えたときに、ヒントになったのも自身の経験でした。両親が離婚してから、ずっと居場所を求めていた中山さんは、大学生時代に大手企業から内定を獲得しながらも、結局その企業には就職しませんでした。
「自分の中にある満たされない気持ちを抱えていたままではきっとダメだと思ったんです。満たされない気持ちというのは父親との関係です。母とはいい関係ではなかったので、父に連絡をとり、少しずつ父の元に通うようになりました。自分がしなくてもご飯が出てきたり、服が洗濯されていることにすごく感動しました。そんな風に、父とすごく中で自分が本当にやりたいことって何だろうって向き合うことができるようになったんです。」
それから、中山さんは佛教大学に編入しました。佛教大学で教育学を学ぶ中で、国際系団体「PEPUP」という団体の活動に参加し、当たり前のことに社会的価値を生んでいく働き方があることに気づきました。
そして、2014年。放課後の学習支援事業を立ち上げます。
人との関わりの中でモチベーションが高まっていく居場所に
1校から始まった放課後の居場所も、今では神戸市を中心に3つの教室を開校されており(2017年7月現在)、それと併せて、学童保育事業で放課後に居場所を探しているご家庭のニーズを受け止めています。
この放課後の居場所で、まなびとがめざしているのは子どものやじるしが未来に向かっていくこと。
「友だちとダラダラ過ごせる居場所はたしかに居心地はいいけど、それだけでは非生産的で長くいると結局つかれてしまうんです。だから、まなびとでは放課後の居場所を小さな社会と捉えて、スタッフや子ども同士の関わりと毎回の勉強から自分がやりたいことが見つかり、そこに向かっていける場所にしたいんです。ぼくは教育は社会に出るために必要なチカラをつけることだと思っています。しかし、今の子どもたちの中には人との関わりが薄いために社会に帰属している意識の少ない、もしくは繋がっている社会が限られてしまっている子どももいます。そんな子どもにとっては、そもそも勉強しようというモチベーションを得ることが難しくなっています。ですので、ここでの関わりをきっかけに学校の勉強に限らず、もっと広い意味で生きるために『学ぶ』モチベーションを高めていきたいです。」
そう語る中山代表。
取材中も、生徒が代表や他のスタッフと楽しそうに過ごしており、子どもにとって安心感や所属感のある居場所だということが子どもの姿から伺えた。
最後に、中山代表に今後めざすものを聞いた。
「まずは、放課後の居場所を増やして今まで以上に子どもが通える機会をつくりたいですね。ぼくはこれからの社会は一人一人が自分の経験に基づいてやりたいことを考えないといけない時代だと考えています。まなびとでは、そのために必要な人との関わりや経験をつくっていきたいですね。そして、最終的には海外にも今のような居場所をつくってみたいですね。今やっているものをそのまま持っていくんじゃなくて、その国の文化に合わせた形でやってみたい。」
子どもを育む上で大切な地域のつながり。そのつながりが失われつつある昨今、まなびとのように温かな態度で子どもと関わる大人がいる居場所は、子どもの心の大きな支えになるでしょう。
神戸市で放課後に子どもを預ける場所を探している保護者の皆様には、ぜひ一度見学に行って欲しい居場所です。
<NPO法人まなびと>
○実施事業
・放課後学びスペースアシスト
・日本語教室だんらん
・神戸こども探検隊