オンライン自習室を見て、僕はあの頃に戻りたいと思った。

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なんの意欲も湧かなかった。
「ガンバろう」という気持ちはあった。
このままじゃダメだと思っていたし、なにかしようとも思っていた。

でも、なにをしたらいいのか分からなかったし、なにかしたいこともなかった。

学校に行かず、河川敷で空を眺める毎日。
やっていることと言ったら、夕方にスーパーのバイトに行くくらいだった。

高校で不登校だった僕は、まったくといっていいほど勉強の意欲がなくなり、教科書を開くことも、ペンを持つこともなかった。

学年で10位圏内だった成績も一気に下降していった。

みんなに取り残されることに対して不安はなかった。勉強していないから成績が下がっていくのも当然だろう。

ただ、未来に対する危機感は大きかった。このままじゃダメだと思ったし、なにかしないとと思っていた。

 

勉強すればいいんだろうけれど、その気力は全く湧かない。
「ヤバいヤバい」と思いながら過ごす毎日。

現実逃避で、ただひたすらにアニメや映画を見ていた。
相談する人もいない。一緒に語れる人もいない。一緒にガンバる人もいない。ただただ孤独だった。

 

高校の友達はいたし、一人だったわけじゃない。
けれど、心の中はずっと孤独で、ひとりぼっちだった。
ある日のこと。

「このままじゃダメだ」と思った僕は、一念発起して勉強を始めることにした。

「とにかくなにかしよう!」と思い、本屋さんで漢字検定の本を購入。
数ヶ月後の検定試験に向けて、漢字の勉強をいそいそとやった。

けれど、びっくりするくらいに集中できない。
部屋で勉強しようとするも、気がつけばパソコンを触っている。
「ちょっと休憩」と言って、アニメを見る。

 

勉強をしていて気がつくと朝になっていた中学生の頃とは違って、びっくりするくらいに集中力が欠如していた。

まるでずっと骨折していて久しぶりにボールを投げた野球選手のように、筋力が落ちていた。

勉強する体力、筋肉、あらゆるものを失っていた。
愕然とするほど、出来ない。

はじめにあったやる気なんてものはスグに消えてしまい、だんだん取り組むのもめんどくさいと思うようになった。

しまいには、「あれ? なんでこんなことやっているんだっけ?」と思い、漢字検定の本もスグに開かなくなった。

 

結局、そのまま僕はずるずると大学受験のときまで本気になることはなく、勉強をせずに入試に挑む。

当たり前のように全ての大学に落ちて、僕は予備校生になった。

浪人生という後に引けない状況になってはじめてちゃんと勉強するようになったけれど、それまではほんとうにガンバることが出来なくなってしまった。

高3のときには塾にも通っていたものの、そこまでガッツリ勉強することもなかった。
どうしても、スイッチが入らなかったのだ。
それから時間がたち、僕はいつのまにか子どもたちに勉強を教えたり、勉強方法をレクチャーするようになっていた。

新型コロナウイルスが蔓延し、外へ出られない状態が続いており、「なにか出来ないか?」と思い、はじめたのがオンライン自習室だった。

参加者同士をビデオ通話で繋ぎ、それぞれが勉強している姿を見せる。

質問があれば、いつでもスタッフに聞くことが出来るし、別室へ移動してゆっくり教えてもらうことも可能。

スタートするときには、「果たしてどれくらいの子が参加するだろうか……」と思っていた。

勉強なんてほとんどの子は、やりたくないもの。
めんどくさいし、家で遊んでいたほうが楽しい。

参加してくれたらいいなと思いつつも、誰も参加しないのではないかとも思っていた。

 

しかし、始めてみると、生徒たちがどんどん集まってくる。
数人だったのが、10人を超えるようになっていた。
モニター越しに黙々と作業している子たちを見て、「あっ」と思った。

僕が高校生のときに必要だったのは、ここだったんだ、と。

 

人間は弱い。ましてや子どもだったらなおさら。
自分が決めたことも守られないし、楽しいほうへ流されてしまう。

けれど、みんながガンバっている姿を見ているとガンバることができる。
しかも、自分の姿も見られていると思うと、サボるわけにはいかない。

 

やりたくない課題、気が進まないことがあれば、「やりたくなーい」と叫ぶ子もいる。

ここは、黙々とただ努力を強いる塾にあるような厳しい自習室ではない。

「苦しいよねー」「大変だよねー」と、タオルで汗をふきながら愚痴を言い合うジムのような場所。

 

不安なことや弱音もはけるからこそ、居心地が良い。
怒られることもないし、叱咤激励がバシバシとぶわけでもない。

みんなで登る山歩きのように、お互いが「頑張ろう」と言いながら、取り組む。
勉強している姿勢を見て、他の子も刺激を受ける。

さながらここは、子どもたちにとっての心の居場所なのかもしれない。

今は週2回。たった数時間。
でも、その時間があることで、勉強する姿勢が出来てくる。
これまでまったく勉強してこなかった子の勉強体力をつける。

 

僕が高校生のときには、こんな場所はなかった。
ただ、一人でガンバるしかなかった。

塾は、不安をあおるばかりだった。
出来ていないことがどんどん出てきて、自分の学力が足りないことを痛感する。
「もっとガンバらないと」と思うけれど、気持ちはついてこない。

焦る気持ちばかりが溢れてきて、気がつけば受験シーズンになっていた。

 

高校3年生のときは、ほんとにつらかった。
気持ちばかりが空回りしていた。

このオンライン自習室に来ている子たちは、そんなことはないだろう。
不安な気持ちがあったら、いつでも言うことが出来る。
話すのが苦手な子は、チャットで「ちょっと勉強不安だー」と打てばいい。

茶化される雰囲気は、ない。

むしろ、「分かるわ〜」と共感される。

ここにいると自分は一人じゃないと思える。
みんながガンバっているから、自分ももうひと踏ん張りしようと手綱を握ることができる。

僕が高校生のときに、こんな場所があれば良かったのに……。
ずるいんだよ……。

 

 

5月31日まで、クラウドファンディング実施中

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田中 洋輔

田中 洋輔

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒 中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。 しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。 野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。 浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。 友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。 フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。 京都新聞にして子育てコラムを連載中。 詳しいプロフィールはコチラから