僕たちは、キャッチャーフライを全力で追いに行く

先日、わざわざ東京から取材にいらして、すばらしい原稿を送ってくださった戸叶さんの記事を公開しましたが、驚くほどたくさんの反響をいただきました。
この記事で、こんな一節があります。
周囲の大人から受けた言葉に深く傷ついた経験のある田中にとって、子どもと接する中で「傷つけてしまったら」「助けてあげられなかったら」といった不安はないのか。すると田中は少し意外そうな表情をした後、「一切なかった」と答えた。「自分たちがやろうとしていることのハードルは低い。子どもを変えようとか、助けてあげようとすら思っていない。子どものやりたいことに耳を傾け、ただ寄り添うこと。できるじゃないですか?」と。
スタッフの山本はそれを「キャッチャーフライ問題」と表現する。「TRY部はスタッフ全員がキャッチャーフライを全力で取りに行く集団。だからセカンドに飛んでいった打球は取れない。皆それで良いと思っている。いわゆる、複雑な家庭環境や重い問題を抱えた子どもたちをケアするような場所とは立ち位置が異なる。自分たちにできるのは、自立しようとしている子どもの背中を押すことだ」
・・・この「キャッチャーフライ問題」、何を隠そう僕の発言なのですが、今日はもう少し深くこのあたりの話を書こうと思います。
「キャッチャーフライ問題」は、元々違うところから使われ始めた言葉だった
白状すると、この「キャッチャーフライ問題」という言葉は、実はもともとひとつの事業やタスクに多くのスタッフが集中して、役割分担を明確にできていなかった細かな仕事が逆に宙ぶらりんになってしまう、ある種のD.Liveの問題点を意味していたものでした。
例えば毎月1度メルマガを発行する、と決めたのに各々他の事業に忙殺されて発行できていない。とりあえず仕事を回収した結果、あふれるほど仕事を抱えたスタッフがいる。「要するに、スタッフ全員でひとつのボールを追いかける、キャッチャーフライをみんなで捕りに行くからアカンねん。だからサードへの打球を誰ひとり追えない」。
キャッチャーフライ問題、という言葉は年末の大反省会で、こんな例えから生まれたものでした。
でもこの比喩表現、そのあと忘年会も兼ねてスタッフみんなでお好み焼きをつつきながら、キャッチャーフライ問題って他に言い得て妙なことがあるかもしれないなー、とひとりでふと考えていました。それで「ああ、これだ!」とハッと気づいたのが、冒頭に取り上げた僕の発言です。
だから僕たちは全力でキャッチャーフライを捕りに行く
よく「D.Liveさん(TRY部)は不登校を専門にしているのですか?」と聞かれることがあります。
確かに、8月に開く講演会は長く不登校支援の場に携わって来られた高垣先生をお呼びしますし、このブログでもたびたび不登校についての記事を書いています。TRY部でも不登校だった生徒がこの教室を通して少しずつ一歩進んでいった事例もあります。
しかし、我々は「不登校を専門にしている」訳ではありません。
TRY部に通う生徒たちは毎日学校に通っています。最近のTRY部では授業前に漢字ドリルや算数ドリルを取り出して「合同な三角形ってどういうことなん!?」とスタッフに聞く姿、なんていうのも当たり前になってきました。そんな彼らでも、毎日不満なく過ごせているかと聞くと、まったくそうではありません。
どうしても忘れ物をしてしまう、毎朝起きるのがしんどい、理科の授業をうまく理解できない・・・子どもたちは、我々大人がしばしば驚くほど、多彩な悩みを抱えながら毎日学校に通っています。そして子どもたちは、こうした日々の暮らしの中で「今日もダメだった・・・」と小さな自信を失いながら生きている訳です。
僕たちの守備範囲は、ここだと思っています。
子どもたちが失った「小さな自信」は、失い続ければ「大きな自信」に変わっていき、ひいては挑戦することを異様に怖がる要因を作ってしまいます。そうならないためにも、子どもたちの失った「小さな自信」を取り戻すこと、そして小さな自信を取り戻す関わり方を大人に広めること、がD.Liveの大きな守備範囲だと、僕は思います。
相手が打ち上げたキャッチャーフライは何が何でも全力で捕りに行く。だけど、外野への大きなフライやセカンドゴロはキャッチャーには捕れないから、そこを守る選手(団体)にお任せする。以前書いた「教育NPOは野球チーム」と言う話は、こういうことです(このコラムでD.Liveはショートを守ってますが・・・)。
高く上がった打球を落球しないように気を付けつつ、たまにフェンスにぶつかりながら、豪快にスライディングしながらボールを捕りに行くように、そして時には160km/hの速球もゆるい変化球も身体を張って受け止めるように、僕たちは自信のない子どもたちの救う存在でありたい。
勝ちどきを上げるその瞬間まで、これからもD.Liveはキャッチャーフライを全力で追い続けます。