【講演全文公開】前編 子どもの意欲を高めるコツ -怒るのに疲れたアナタへ- in 横浜
2017年11月11日に、横浜市泉区PTA連絡協議会にて講演をさせていただきました。
その講義録を掲載させていただきます。
はじめまして。NPO法人 D.Liveの田中です。
2009年、まだ大学生だったときにこの団体を立ち上げました。
僕は、中学3年生くらいから学校がしんどくなり、高校生のときに不登校になりました。
浪人をして、なんとか大学へ入学したのですが、5月くらいには「もう辞めたい」となり、1年以上、下宿先で引きこもっていました。
それから、友人の助けもあり、なんとか立ち直り、就職活動のとき「なにをしよう?」と思っていたとき、自分がしんどかったことを思い出し、「なにかできないか」と思って立ち上げたのがこの団体です。
D.Liveは、滋賀県を拠点に活動をしています。
活動は、「大人・親が対象」と「子どもが対象」の2つに分けられます。
大人対象では、自尊感情に関する研修や講演、勉強会。不登校のお話し会などをしています。
子ども対象では、草津市の事業でひとり親家庭の子ども向けの居場所づくり。
不登校の子どもたちの昼の居場所。
学校へ行けるけれど、自信が持てない子の教室を運営しています。
自尊感情の研究として、『子どもの自信白書』を発行しております。
最近だと、夏休みに小学生20人との6泊7日で、滋賀県と福島県を旅して、新聞をつくる企画のプロデュース。
引きこもっている高校生を連れての徳島への旅行などをおこないました。
今日の講演ですが、皆さんと一緒につくっていきたいと考えています。
講演時間は、90分あるのですが、ずっと聞いているだけでは眠たいですよね。
なので、たまにワークを入れて、みなさん同士でおしゃべりする時間をとっています。
また、今日は質問タイムが40分あります。(会場がどよめく)
もし、皆さんからなにも質問なければ、40分間、この会場に静寂が訪れてしまいますので、どうぞよろしくお願いいたします。
今回、有り難いことに600人くらいのかたがご参加ということで、どうしても距離が遠いですよね。
なので、もう舞台から降りて、どんどん皆さんの近くまで行こうと思っています。
アイドルみたいに。
では、はじめていきたいと思います。
まずは、今日の一つ目のめあて。
自尊感情や自己肯定感という言葉、みなさん聞いたことありますか?
8割くらいのかたが手を挙げてくれましたね。
では、もう一つお聞きします。
自尊感情について詳しく説明できるってかたは?
はい。いらっしゃらないですね。
自尊感情という言葉は、よく聞くと思うのです。
「自尊感情が大事だ」「子どもの自尊感情が低い」と。
でも、詳しくってよく分からないですよね。
実態がつかめない。
なんとなくは分かるけれど、具体的に説明できない。
それが、自尊感情だと思います。
今日は、皆さんにはバッチリ自尊感情を理解していただきます。
明日、近所のかたに会って「なにか講演会行ったらしいけど、どうでした?」と聞かれたら、「いやぁ、奥さん。自尊感情って説明出来ます? 教えてさしあげますわ。おほほほ」と、ドヤ顔で言えるくらいになりましょう。
僕たちは、『子どもの自信白書』という冊子を作成しているのですが、そのときに自尊感情の定義を決めました。
それがこちらです。
よく自尊感情って、“自尊心”と間違われます。
一緒だと思っているかたも多くいます。
だから、「自尊感情って高すぎるとダメなんでしょ」と言われることもあるのです。
でも、そうじゃないのです。
自尊心が高すぎると、自分の悪いところも”肯定”します。
見ないふりをします。
結果、傲慢になったり、人を見下すようになるのですね。
自尊感情は、“受け容れる”のです。
結果に対して、評価をしない。
たとえば、人を殴ったとしましょう。
自尊心が高いと、「あいつが悪い」「俺は悪くない」となりますよね。
自尊感情が高い子は、「殴ってしまう自分もいるんだなぁ」と、ただ、ただ受け容れるのです。
「殴った自分はダメな子だ」と自己否定することもなく、「殴った自分でもいいんだ!」と肯定するのでもありません。
ただ、殴った事実を受け容れるのです。
それが、自尊感情が高い状態です。
自尊感情は、誰かと比べる相対的ではなく、絶対的なものです。
誰かと比較して優れているからではなく、「自分が自分であって大丈夫」という感覚なのです。
自尊感情が高い事例を考えていると、のび太くんがまさにそうだなと思いました。
のび太くんは、勉強ができなくてもそれほど落ち込みません。
昼寝をしているのが好きで、ただそれだけで幸せなのです。
友達よりも優れているから満足ではないのです。
自分の好きなことをしている時間が幸せなのです。
彼をつくってきたのは、おばあちゃんの存在です。
おばあちゃんは、「のびちゃんは、のびちゃんだよ」とありのままを受け容れてあげていました。
勉強ができる、運動ができる。
そんな条件をつけることなく、のび太のあるがままを受け容れていました。
あとで出てきますが、このおばあちゃんの関わりが、『包み込まれ感覚」と呼ばれるものです。
この感覚が育まれたことで、のび太は自分のあるがままを受け容れることができているのだと思います。
スネオのラジコンを見て、「欲しい」とは思っても、「ラジコンを持っている自分は情けない」「持っていない自分はダメだ」と自己否定することはありません。
ただ、純粋に「自分も欲しい!」と思うだけなのです。
なんとなく、自尊感情は分かったと。
定義も分かった。
でも、「じゃあ、自尊感情を高めよう!」と思っても、どうしたらいいか分からないですよね。
まだまだあいまいで、よく分からない。
そこで、自尊感情を4つの構成要素に分解したものがあります。
高知の教育センターさんが作った図です。
4つの項目がこちらです。
ここからは、少し座学が続くので、眠たくなってしまうのですが、ガンバって皆さんついてきてくださいね。
・包み込まれ感覚
・自己受容感覚
・自己効力感
・社交性感覚
一つ一つ、説明していきましょう。
包み込まれ感覚
〈包み込まれ感覚〉は、のび太くんの例でも出てきましたが、あたたかく包まれている感覚です。
小さい頃、親戚の家に行ったとき。
おじいちゃんやおばあさんの関わってくれたとき、なんだか暖かい気持ちになったこと、ありませんか?
自分のことをすべて受け容れてくれているなぁと感じる気持ち。
それが、包み込まれ感覚です。
自己受容感覚
〈自己受容感覚〉は、自分を受け容れる気持ちです。
不登校の子どもたちは、この自己受容がなかなかできません。
「学校行けていない自分はダメだ」と、自己否定してしまうのです。
でも、自己否定しているままでは、なにも変わらないのですよね。
すごくしんどい。
だって、「今の自分はほんとの自分ではないんだ」と現実逃避して、今の自分を見られないので。
あるがままの自分を受け容れ、「自分は学校へ行けないのだなぁ」と受け容れることができたら、一歩踏み出すことができます。
この自己受容ができるかできないかが、自尊感情が高いか低いかの判断基準になります。
自己効力感
〈自己効力感〉は、“やればできる”という感覚です。
皆さんがよく、「うちの子、自信ないねん」というのは、だいたいがこの自己効力感です。
これは、特定のことに対する自信です。
「僕は勉強ができる」「私は運動ができる」というような。
それぞれは独立しています。
たとえ、どれだけ勉強ができても、「勉強できるし、運動もできる!」とは、なかなかならないですよね。
この自己効力感は、成功体験や励ましなどで、高めることができます。
社交性感覚
〈社交性感覚〉は、子どもにとってすごく大切です。
コミュニケーションがうまくいかず、学校へ行けないようになる子も多くいます。
社交性感覚とは、「僕が言っていることは、ちゃんと伝わっている」「友達が言っていることは、自分もちゃんと分かる」という感覚です。
自尊感情は、この4つから構成されています。
「なんだかうちの子は自信がなくって、きっと自尊感情が低いわ……」と思ったとき、まずはこの4つの要素を見てください。
その上で、「まずは包み込まれ感覚を養ってあげよう」「もうちょっと勉強の自己効力感を高めたほうがいいな」と、方針を立てていくのが良いですね。
自尊感情は、どうしてもあいまいで、難しいと思います。
今日の話を聞いただけで、100%全てを理解できることはないでしょう。
しかし、”自尊感情とはどういうものか”は理解していただけたと思います。
まずは、概念と4つの構成要素を頭に入れた上で、これからお子さんに接してみてください。
自尊感情を高める関わり方に答えはないので、一つ一つ試行錯誤しながら、お子さんにあった方法を模索してみてくださいね。
では、次の項目に移ります。
今回は、『子どもの意欲を高めるコツ -怒るのに疲れたアナタへ-』というタイトルです。
まず、前提を話すと、僕は子育てをしたことがありません。
子どもがいないので、実際に子育てをしたことはないんですよね。
普段、たくさんの子どもたちと関わってはいますが、皆さんのように子育てをしているわけではありません。
なので、僕から偉そうに「こうすれば意欲が高まります!」なんて、言うつもりはありません。
家でだけ料理を作っている素人が、レストランのシェフに「包丁はこう握るのですよ」なんて、言えないじゃないですか。
今回、僕がお話させていただくことは、考え方や視点です。
「こんな風に考えるといいですよ」「こんなところを見てみるといいですよ」という、ご提案です。
話しを聞きながら、「これならできるかも」「それなら、こんな方法があるな」と、皆さん自身で具体的方法などは考えてみてください。
だって、「こんな方法あります」って言ったところで、ほとんど続くことってないじゃないですか。
やっぱり、方法論って、そのままでは自分に合わないのです。
自分なりに、咀嚼して、チューニングして、自分なりに加工してくださいね。
まずは、子育てのスタンスから。
スタンスとは、心構えですね。
どんな風に子育てを捉えるか。
大事にしていただきたいのは、この3つです。
まず、「ガンバらない」ってこと。これものすごく大事です。
やっぱり、ガンバって子育てをすると疲れちゃう。
しんどくなるのです。
だから、僕はどんな親御さんにも「あまりガンバり過ぎないでください」と言います。
ガンバっている人にとっては、「いや、ガンバらないとか無理」と思いますよね。
なので、具体的にどうすればいいのかは、今日お話させていただきます。
次に、「否定しない」です。
これは、さっきご紹介した自尊感情のところにあった自己受容ですよね。
自己否定するたび、自尊感情はどんどん減っていきます。
子どもの自尊感情も重要ですが、それと同じくらい親御さんの自尊感情も大切です。
親が自尊感情低いと、子どもも低くなってしまうので。
最後に、「答えを探さない」です。
皆さん、子育ての正解する旅に出ていませんか?
どこかに答えがあるはずだ。
もっといい子育ての方法がある。
そう思って、雑誌を読んだり、子育て本を探していませんか?
これ、チルチルとミチルの青い鳥と同じで、答えはどこにもありません。
実は近くに転がっているのです。
でも、皆さん「どこかにあるはずだ」と思って、旅に出てしまいます。
そして、疲れてイヤになってしまうのです。
だから、旅に出るとしても日帰りくらいにしてくださいね。
気軽に帰って来れる距離に。
皆さん、いろいろ子育て本とか見て、試してみることってありますよね。
でも、なかなかうまくいかないんじゃないでしょうか?
うまくいかないとき、「私はダメだな」と自己否定するか、「この方法が悪い」とやり方のせいにしてしまうと思います。
どうして、うまくいかないかというと、ほとんどのかたは方法しか見ていないのです。
「褒める子育てがいいぞ!」と聞けば、とりあえず褒めてみる。
でも、あるとき困った事態がおきます。
「あれ? 褒めるところない場合は、どうする?」と。
そのとき、「やっぱり、この方法はダメだな」と思ったり、「もっとガンバって褒めないと!」と無理矢理ガンバったりします。
僕は、大切なのは、その方法よりも、考え方や理論だと思うのです。
どうして、褒めたほうが良いのでしょうか?
どうして褒めるのでしょうか?
その方法の意図や意味が分かっていたら、「褒めるところがない」ときにでも、自分なりにアレンジをすることが出来ます。
自分なりにチューニングができるのです。
ただ方法論に踊らされるだけじゃなく、子育て法とかを見たら、「その人はどういう理由でその方法をおこなっているのだろう?」「どんな意図があるのだろう?」と考えてください。
すると、その方法はうまくできなくても、考え方は吸収して、自分なりの子育てに活かすことができます。
子育ての心がけをまずは、2つだけご紹介させていただきます。
この言葉、アドラー心理学などで使われるものです。
子どもが勉強しないとき、イライラしますよね?
なんとか勉強させようと思って、机の前に座らせる。
でも、ふと目を離すとゲームをしている。
マンガを読んでいる。
なかなか勉強をさせることができない。
ここに来られているかたでも、思い当たるふしはあるでしょう。
この言葉があらわすように、たとえ水飲み場までは連れていくことができたとしても、水を飲むかどうかは本人次第です。
でも、どうしても「なんとかコントロールしたい」ってなるんですよね。
低学年のときはいいんですよ。
言うことを聞くので。
でも、高学年から思春期に入ってくると、自我が芽生えるので、口答えしてくるようになるんでよね。
「なんで勉強しなあかんの?」って。
なんとか力尽くで水を飲ませようとしても、無理です。不可能です。
なので、まずは「無理矢理に水を飲ませることはできない」ということを頭にいれておいてください。
これが分かっているだけでも、ストレスは激減します。
「なんで言うこと聞かないのっ!」と、イライラしなくてすみます。
水を飲ませるのは、仕組みでなんとかしましょう。
水飲み場をオシャレにしてみる。
水をジュースに変えてみる。
など、いろいろな方法を試しながら、どうすればその子が気持ち良く水を飲むかを考えてみてください。
2つ目は、ある人の言葉をご紹介します。
この人、ご存じでしょうか?
きっと、知っているかたいらっしゃるハズですが、この写真だけでは分からないですよね。
この人、この本を書いた人なのです。
はい、そうです。
サンテグジュペリですね。
この言葉、恋愛について言っているのですが、僕は子育てにも応用できると思うんですよね。
皆さん、普段お子さんがどの方向を見ているかご存じでしょうか?
どこの方向を見ていて、どこへ行きたいと思っているか知ってますか?
子育てをしていると、つい向き合ってしまうのです。
よそ見していたら、「こっちの方向を見なさい」と言って、大人が見る方向を決めてしまうのですよね。
ほんとは専門学校へ行きたいと思っているけれど、親は大学へ行かせるといったような感じです。
そこまで極端ではなくても、普段からお子さんがどこの方向を見ているのか、注意して見てあげてください。
そして、どうやってその先まで進めば良いか分からないとき、そっと助言をしてあげればいいのです。
うちの生徒で、3年間中学校にほとんど行っていない中学生がいました。
3年生で、そろそろ受験も近づいてきていた。
常日頃から、「どうしたい?」「なにがやりたい?」と教室で聞いていました。
はじめのうちは、「わからへん」「別に……」と言っていました。
でも、ある日のこと、彼が言ったのです。
「俺、コミュニケーション能力が問題やと思うわ」と。
「コミュニケーションがうまくなったら、もっと学校も楽しくなると思うねん」と言ったのです。
彼は、「コミュニケーションが上手くなる」という、向かうべき星を見つけました。
僕は、「そっか」と言って、どうすれば彼がその星まで到達できるかを考えたとき、「旅だな」と思ったのです。
そこで、彼にひとり旅を提案し、彼は中学3年生にも関わらず、一人で滋賀から長野県まで行きました。
学校にも行かない子が、たったひとりで、携帯電話も地図も持たずに向かったのです。
1泊をして、帰ってきたとき彼は「もう大人とは余裕でしゃべれるわ!」と言ったのです。
もし、彼がなにをしたいかを聞かず、「旅に行って来い!」と言っても、きっと彼は聞く耳を持たなかったでしょう。
「いや、別にいい」と、そっけなく断ったと思うのです。
しかし、彼がどこへ向いているかが分かったので、そのための方法として“旅”というものを提案したので、その子は二つ返事で「やる」と言ったのです。
ぜひ、お子さんがどこの方向を向いているかを見てください。
向かおうとしている先さえ分かれば、あとはその先を目指す方法や手段をアドバイスしてあげればいいのです。
今日は、いくつかメニューをご用意しました。全てはお話できないので、皆さんが聞きたいことをお話させていただきますね。
(今日はここまで。続きは、また後日掲載させていただきますね)