あなたの存在が、子どもの人生を変えるかもしれない

あるとき、一通のメールが届いた。

「学校が辛く、悩んでいます」から始まる文面には、心の叫びが書かれていた。

中学3年生の彼女は、コミュニケーションが苦手で、学校のグループワークが苦痛だった。

自分の”真面目”な性格が嫌いで、自分のことを好きになれなかった。

自信が持てず、将来が恐ろしく、辛いという。

メールを読んでいて、「僕と同じだな」と思った。

僕自身も、自信を持てない子どもだった。

人と比べ、落ち込むことばかり。

ずっと自分が嫌いだった。

どうすれば、自分を好きになれるのだろうと悩み、大学生の頃には、”自信”に関わる本は、手当たり次第に読んだ。

自分を変えたかったし、なんとかしたかった。

だから、彼女のメールを見たときには共感できたし、気持ちが痛いほどよくわかった。

人生には、たくさんの出会いがある。

「あの人に出会ったから、今の自分がいる」

そんな人がきっとあなたにもいることだろう。

僕にとって大きなキッカケになったのは、大学の授業に来られていた瀬戸内寂聴さんだった。

人生が苦しくて、自分が嫌いで、どん底の頃だった。

意を決して、「人生が苦しくてたまらないんですけど」と質問をした。

すると、寂聴さんは、「苦しんだ人ほど、人に優しくできるのですよ」と言ってくれた。

たったそれだけの言葉で、僕はどれだけ救われただろう。

自分が苦しんでいることにも意味があると思った。

そして、”優しくできる”という言葉を受け取った結果、僕はNPOを立ち上げることにした。

自信が持てない。
やりたいことがわからない。
自分が嫌い。

僕と同じような悩みを持っている子どもたちに対して、なにかできるんじゃないかと、思ったからだ。

どん底の学生時代、僕は多くの人に出会い、たくさんのことを学んだ。

誰一人欠けても、きっと今の自分はないだろう。

スターバックスでバイトしていた頃。

厳しい店長のもとでしごかれ、嫌気がさしていた。

そんなとき、店長は僕を呼び出して、言った。

「なにも言われなくなったら終わりやで。なにか言われるのは、あなたのことを思ってだよ。もし、誰からもなにも言われなくなったら、もう期待していないってことだから」

それから、叱られるたびに落ち込むなんてことはなくなった。自分が出来ることをちゃんとやろうと思うことができた。

学校や本からも学ぶこともできる。

でも、なによりも多くのことを学べるのは、人からだと僕は思っている。

大学生になって、僕はたくさんの人との出会いに恵まれた。

しかし、それまでは、はっきり言って”ハズレ”だった。

中学のときは、先生と胸ぐらを掴み合ったことがある。

自分を分かってくれる大人なんて誰もいなくて、大人なんて一切信じられなかった。

薄ら笑いをしながら、「なんでも言ってこい」という先生を信じられなかった。

今になって思う。

もし、あのとき自分のことを分かってくれる大人がいたら、もっと人生は変わっていたものになっていたのじゃないか……と。

悩みを聞いてくれる人はいなく、苦しさを吐き出せる友達もいなかった。

僕は自分だけで、なんとかして問題を解決しなくちゃならなかった。

だからこそ、だ。

だからこそ、僕は子どもたちの力になりたいと思った。

自分が子どもの頃に欲しかった大人になろうと思った。

モヤモヤしている気持ちを聞いてくれる人がいるだけでも、全然違うだろう。

素晴らしいアドバイスも、完璧な問題解決方法も提案できないかもしれない。

しかし、話しを聞くことはできる。

「そっかぁ、しんどいね」と言ってあげることができる。

年の離れた友人のようなスタンスで、じっくり耳を傾けてあげればいいんじゃないかな、と思った。

そう思って、TRY部という教室を立ち上げた。

ここは、勉強は一切しない。

1週間あったことを振り返り、みんなで共有する。

そして、「なりたい自分」を目指して、計画を立てる。

「ちょっと聞いてぇやぁ〜」と言って、教室へ駆け込んでくる女子もいる。

「うちの子、言いたいことがあれば、TRY部に持っていくわって言うんです」と親御さんが言っていたこともある。

気がつけば、立ち上げてから4年目になり、いつの間にかこの教室は子どもたちの居場所になっていた。

「ここは、心地良い」と子どもたちは口々に言う。

「ただ愚痴を聞いてあげればいいかな」と思って始めた教室だったけれど、子どもたちはどんどん成長していく。

「勉強したいけど、やる気がどうしても出ないねん。なんか、誰かに教えたら、勉強進む気もするねんけどなぁ」

そう言った高校生に、ボランティアに来ていた大学生は言った。

「そやったら、家庭教師したらいいやん」

本人にとっては、思ってもいなかったアイデアだったけれど、「たしかに。出来たらおもしろいかも!」

結果、彼は近くに住んでいる中学生に勉強を教えることになった。

生徒だけでは決して浮かばなかったアイデア。

でも、ボランティアの大学に出会い、もらったアドバイスによって、彼の人生は小さくだけれど変わった。

前進するキッカケになった。

僕は、出会いというのはボディブローだと思っている。

その瞬間に効果が出ることもあれば、しばらくたったときに効果を発することもある。

当時は、なにを言っているか分からなかったけれど、今になって思うと、「たしかにそうだな」と思うこともあるだろう。

TRY部では、大人は常にボディブローを打ち続ける。

即効性は、求めない。

なにかキッカケに繋がったらいいなと思い、声をかける。アドバイスをする。アイデアを伝える。

たまに思ってもいない言葉が子どもに響くから面白い。

中学校にほとんど行っていない男の子がいた。

なんとか自信をつけて欲しいなと思った僕は、なんとなく旅を提案した。

僕自身が、数日前に旅行して楽しかったから、思いつきで言ったアイデアだった。

きっと拒否られるだろうと思っていた。

学校へ行くのも億劫なのに、旅なんて断ると思っていた。

「いや、めんどくさいし、いいわ」という言葉が来るだろうと想像していた。

けれど、違った。

「うん。それ、面白そう。行ってみようかな……」と言ったのだ。

1ヶ月をかけて、一緒にどこへ行くかを相談し、親御さんにも頼んでチケットを買ってもらった。

そして、中学3年生の男の子は、滋賀から長野県まで、たった一人で、スマホも持たず、一泊二日の旅へ出た。

帰ってくると、自信に満ちあふれている表情をしていた。

コミュニケーションが苦手だと言っていたのに、「大人と話すことなら、もう余裕やわ」と言うまでになっていた。

TRY部で、子どもたちを見ていて思う。

子どもは、小さなキッカケで、大きく変わる。

変わるキッカケをあげることで、劇的な成長を遂げる。

一人旅へ行った彼は、数年たった今でも言う。

「あの旅が僕を変えてくれた」と。

僕たち大人が、子どもたちに、小さなキッカケを作ってあげられたらいいなと、思っている。

大人になって思うのが、子どものときにもっと知っておきたかったことがある、ということ。

夢を挫折した人の気持ちや勉強する意味。
友達と付き合うことってなんなのか。
どうすれば、やる気を高めることができるのか。

知っていたら、きっと中学生のときにたくさん悩むことはなかった。

たとえ、悩んだとしても、もっともっと前へ進むことができたと思うんだ。

老婆心だけれど、子どもたちには、自分が経験したことをたくさん伝えてあげたいなと思う。

もしかしたら、それが生きていく上での一助になると思うから。

先日のこと。
教室を始めたときに通っていた生徒が、僕の結婚式に来てくれた。

小学5年生だった彼は、もう高校生になる。

彼は、「あのとき、学んだこと、教わったことが全て今に活きているよ」と言ってくれた。

僕には小さな夢があって、彼が成人したときには、一緒に酒を酌み交わしたいと思っている。

子どもたちの成長は、なによりも代えがたい嬉しさがある。

なにが嬉しいって言うと、僕たち大人が想像しないほどの成長や変化を子どもたちが見せてくれること。

全くの想定外がどんどん起きる。

僕たちに出来ることは、たかだか話しを聞いて、思うことを伝えてあげるだけ。

でも、子どもの頃を思い出して考えてみると、否定せずに、自分の話を聞いてくれる大人の存在がどれだけ嬉しいだろう。どれだけ有り難いだろう。どれだけ勇気になるだろう。

気がつけば、ここは子どもたちの居場所になっていて、「どんなことでも話せる」と子どもたちは話してくれる。

学校の先生で腹を立てているときだって、友達とケンカをしたときだって、真っ先に話しをしてくれた。

親御さんは、悩んだとき、困ったとき、「ちょっと子どもの話を聞いてあげてください」と言ってくれる。

いつの間にか、僕たちは子どもたちの良き相談相手になれているのかも知れない。

カウンセラーでもない。占い師でもない。先生でもない。

ちょっと年の離れたお兄ちゃん、お姉ちゃんのような存在で、僕たちは子どもと関わっている。

生徒は、ため口で話してくれるし、あだ名で呼んでくる。

フラットな関係だからこそ、子どもたちは気軽に、思っていることを吐き出してくれる。

子どもたちが、頼りにしてくれるのは、素直に嬉しい。

じっくり話しを聞いて、頷いているだけで、「スッキリした」と笑顔で言ってくれる。

「もっとアドバイスしてあげたほうが良かったのかも」と思うこともあるけれど、子どもたちの満足そうな表情を見ていると、「これで良かった」といつも思う。

メールを送ってきてくれた中3の彼女は、TRY部へ来て、大きく変わった。

「今日も学校でいっぱいしゃべられたんです」と、教室へ来ると笑顔で報告をしてくれる。

自信が持てず、学校が楽しくなかったのがウソのようだ。

モヤモヤしている気持ちは、親や先生、友達には決して言えなかったみたいだ。

「どうしたらいいか分からないんです」

そう言う彼女と、一緒になってどうやってコミュニケーション能力を高めていったらいいかを考えた。

帰ったあと、彼女は自分でWebやYoutubeを使って、どうすればコミュ力を高められるかを調べ、いろいろチャレンジしていた。

「こんなふうにやったらうまくできるみたいです〜」

調べてきたことを、嬉しそうに見せてくれる。

気がつけば、大嫌いだったグループワークの時間は、チャレンジングでワクワクする時間に変わった。

「自己紹介の時間あったんですが、全然緊張せずに出来たんです〜」

うまくいったこと、嬉しかったことがあるたび、彼女は笑顔で報告をしてくれる。

その表情を見るたび、僕たちは嬉しくなる。やりがいを感じることができる。

もしかしたら、親御さんよりも、僕たちは子どもたちの成長を見ることが出来ているんじゃないかと思うと、なんだか贅沢な気持ちになる。

僕は、子どもたちにたくさんの経験をして欲しいと思っている。たくさんの人と出会い、たくさんのことを学んで欲しい。

考え方は一つじゃないし、たくさんの考え方がある。

今の時代、生き方も多様化していて、働き方も一つじゃない。

だからこそ、子どもにはできるだけたくさんの大人と接して欲しいのだ。

たくさんのアドバイスがあっていい。
たくさんの考え方があっていい。

その中から、子どもたちが「自分に最適だ」という選択肢を選び、行動していけばいいのだ。

知っている大人の数が多いほど、自信が高いという統計もある。

子どもたちには、たくさんの大人との出会いを僕はつくってあげたい。

あなたが経験したことの全てが、子どもたちにとっての学びになる。

考えやアイデアなど、どんどん子どもたちに伝えていってあげて欲しい。

ボディブローは、いつ効くかは分からない。

でも、数年後、子どもたちがあなたに感謝する日がきっとやってくると思う。

「あのときのアドバイス、ありがとう」と。

子どもにとって、あなたとの出会いが、人生を変えるキッカケになるかもしれない。

将来、笑顔でお酒を酌み交わす日が来るかもしれない。

「あなたに出会ったから、今の自分がいる」と、子どもたちが言ってくれるかもしれない。

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この記事を書いた人

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒

中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。
しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。
野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。
浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。
友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。
フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。
京都新聞にして子育てコラムを連載中。
詳しいプロフィールはコチラから

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