勉強は、筋トレのようなもの〈連載小説⑦〉

「どうやって自信ってつければいいのでしょうか? うちの拓海も、全然自信がないみたいで、なにやっても、めんどくさいって言うのです」
「自己効力感のときに、”成功体験”が大事だという話しをしましたよね?」
「はい」
「でも、成功体験って難しいんですよ。勉強が苦手な子が、勉強が結果でるまでには時間がかかりますし、途中にイヤになってしまう」
「そうなんです。なかなか結果でないので、成功体験が大切なのは分かっていても、うまくいかないんです」
「これね、簡単なんですよ」
「え? 簡単なんですか?」
「TRY部で、計画を立てていることは言いましたが、計画を立てるときに大切にしていることがあります」
「なんでしょうか?」
「目標のハードルをできるだけ下げるのです」
「下げるのですか?」
「そうです。もう、めちゃくちゃ低い目標を立てさせる」
「低い目標というと、どれくらいでしょうか?」
「9割くらいは達成できる目標です。少しだけガンバったらできるものです。計画を立ててよくあるのが、自分でハードルを高くしすぎて、イヤになることです」
「はい。後で後悔することがよくあります」
「だから、できるだけ低くて、うまくいきそうな目標を立てるのです」
「それでいいのでしょうか?」
「いいんですよ。高い目標を立てすぎてイヤになるよりも、できそうだと思う目標を立てたほうがモチベーションが高まるのです」
「私は、ずっと高い目標を立てないとダメだと思っていました」
「それね、ダメなんですよ。よく大人が、”高い目標を立てよう”って言うのですが、それをするとガンバれなくなっちゃうんです」
「どうしてでしょうか?」
「自己効力感が高くて、できると思うならいいんです。その目標に対してガンバればいい。でも、自信がない子は、できると思えないから、高い目標を立てたところで初めから諦めてしまっているのです」
「たしかに。どうせ無理と思うから、私は目標を立てることができなかったです」
「そうなんですよ。だから、目標はできるだけ小さく立てるのです。もうバカみたいに小さな目標を立てる」
「バカみたい、ですか?」
「はい。うちの生徒で、勉強が苦手な生徒がいました。そこで、毎日勉強しようということになったのですが、どんな目標を立てたでしょうか?」
「毎日、30分以上勉強する、とかでしょうか?」
「30分は、ちょっとしんどいですねぇ。勉強が苦手な子は、30分でもだいぶしんどいです」
「では、10分?」
「いいえ。正解は、1分です」
「1分……ですか?」
「そうなのです。1分なんて意味がないと思いますよね。そんなこと誰でもできると」
「はい。正直、そんな目標を立てても意味がないと思ってしまいました」
「でもね、勉強の習慣がついていない子にとっては、たとえ1分だとしても、毎日勉強するのは挑戦なのですよ。だって、今までやったことがないことなのですから」
「たしかにそうですよねぇ。それで、やってみてなにか変わるのでしょうか?」
「1週間後、その生徒はこんなことを言ったのです。”1分は余裕やったわ。次は、2分に挑戦するわ”ってね。こうやって少しずつ少しずつ、やっていくのです」
「彼にとって、1分勉強するというのが、成功体験になってのですね」
「はい。やればできるって思うことができたのです。だから、たかだか1分だからと言ってバカにできないのですよ」
「本当ですね」
「もし、仮に、子どもが親御さんに、毎日1分勉強しているって言えば、どんな反応になると思いますか?」
「もっとやりなさいって言ってしまうと思います……」
「僕たちは、”すごいやんっ”と言うのです。すると、”自分は結構すごいことをやったんだなぁ”と満足して、成功体験に繋がるのです。だから、まずはスタートは小さな小さな目標を立てるのです」
「そうやって出来ると思える目標を立てて、成功体験を積み上げていくのですねぇ」
「僕は、どんなことだって筋トレだと思っています」
「筋トレ?」
「5kgのバーベルしか上げられない人が、いきなり100kgのバーベルをあげようとすればどうなるでしょうか?」
「ケガをする……?」
「そうです。まずは、5kgが持てる人は、次に10kg、20kg、30kgと、順番に重さを増やしていきます。勉強でも同じです。いきなり30分も勉強するなんてできないのです」
「少しずつ筋肉をつけていくことで、できることが増えていくのですねぇ」
「その通りです!」