頑張らなくて大丈夫。子育てに不安と孤独を抱えるママへ
先日、岐阜県羽島市で開催された羽島市青少年健全育成大会に参加し、
私が大尊敬している、辻󠄀由起子さんの講演を拝聴させていただきました。
辻󠄀由起子さんは、大阪府茨木市出身。18歳で結婚、19歳で娘さんを出産。
しかし結婚後、夫は事故に遭い、精神疾患を患ってしまいます。
家族やほかの誰にも頼れず、相談できる人がいない中で、子育てをしながら毎日必死に働き、疲れて帰ると、夫からのDVが待っているという日々でした。
でもこの苦しい日々は、「知識」を得ることで乗り越えられると考え、通信大学で学び始めます。
そして23歳の時、大学を卒業し、離婚してシングルマザーになりました。
その後は正社員として働きながら、子育てをしていく中で、どんなに苦しい時でも、周りからは
「あなたはお母さんなんだから、子どものために頑張って!」、と言われ、誰も助けてくれない現実を目の当たりにします。
「母親がこんなにも孤独を感じて、子育てをしなければならないこの社会は、いったいどうなっているのか…社会の仕組みをしっかり学びたい」
そう思い、もう一度、大学で社会福祉を学び、33歳の時に社会福祉学科を卒業されました。
現在は、大阪府知事認定子ども家庭サポーター(子ども虐待防止アドバイザー)として、数々の相談業務を行いながら、全国各地で講演活動を行う傍ら、自治体のスーパーバイザー、政策提言、マスコミ発信なども活動の柱とされています。
辻󠄀由起子さん講演会
『一人で悩まんとって~子育てするのは一人じゃない!』
『学校でも大学でも、教えていないのは親になる方法です。
人間は、ミラーニューロンといって、人を真似ることで学んでいく生き物。
でも、子育ての知識や経験のないまま親になって、出産後孤立してしまうと、誰からも育児を真似て、学ぶことができないのです。』
1955年以前は、地域コミュニティーの中で、平均5人家族という環境で生活が営まれていました。
近所付き合いもあり、子育てにおいても、タテ、ヨコ、ナナメ、様々な形で人と人とが関わり合い、
支え合いの中で行われていました。
自分の親や、地域の人が子育てをしている様子を、目にする機会が多く、そこから自然に、親になる方法を学び、子育ての仕方を真似することができたのです。
しかし現在は、平均3人の核家族という環境で、子育てをすることがごく普通になっており、人と人とが関わる機会が減り、またその関係が希薄になっている、と由起子さんは言います。
子育ての方法を見て学ぶことができない環境での子育て、いざというときに頼れる人がいない環境での子育て…
このように、周囲から孤立して、不安や孤独を感じながら、子育てをしているママたちが、本当にたくさんいるのが現状です。
私自身も、初めての子育ては、毎日不安や孤独を感じながらの子育てでした。
由起子さんのお話を聞いていると、その頃の自分を思い出し、胸がキューっと締め付けられます。
息子を出産して2週間たった頃、夫の祖父が急逝し、夫だけが遠く離れた実家に帰り、アパートの部屋で、私と生後2週間の息子と二人きりで過ごしたことがありました。
一日中部屋の中で、息子を抱っこし、ひたすら、おっぱいをくわえさせて、何とか一日を乗り切る。
里帰り出産をしなかったので、頼れる人は誰もいない。毎日孤独で、これでいいのか不安だらけの育児でした。
ある日、息子の泣き方がいつもと違い、何時間も泣き止まないので、息子の体に何か大変なことが起きている!と不安になり、半泣き状態で産院に電話しました。
すると「おっぱいを飲みすぎてお腹が張っているのかもね」と助産師さんが優しく教えてくれました。
なんだ、病気じゃないのか、病気じゃなくても赤ちゃんて、こんなに泣くもんなんだ、とそのとき初めて知り、心底ほっとしたのを覚えています。
今思い出すと、笑える出来事ですが、その時は必死で、このまま手遅れになって息子が死んでしまうんじゃないかと本気で思っていました。
そんな時に一言「大丈夫だよ」と言ってくれる人が一人でも近くにいたらどれだけ安心できたか。
『子育てをするということは本当に素晴らしいこと。
子育てを毎日やっているママは、それだけで素晴らしい』
『一人で子育てはできない。ママだからって、一人で頑張って子育てしなくていい』
由起子さんのお話は、子育てを一生懸命頑張っているママたちの気持ちを全部代弁してくていると、私は感じます。
ママたちは毎日我が子を想って、一生懸命子育てをする。
そんな一生懸命なママたちを優しく包み込んでくれる由起子さんの言葉、そして由起子さん存在そのもの。
由起子さんの講演を聴いて、今子育て真っ只中のママたちはもちろん、将来ママになる若い人たちが、孤独や不安の中で、育児をしなくてもいいように、人と人とがつながって、気軽に関わり合えるネットワークを、地域の中で作っていきたいと思いました。
そして、ママだけが子どもを育てるのではなく、地域が、社会が、一緒に子どもを育てる。
ママたちの日々の生活の中のひとつとして、「子育て」があって、もっとママたちが自分の人生を、自分で選んで、自分らしく歩んでいけるような社会になったら素敵だな、と、思いました。
「児童虐待」は、決して「他人事」ではない
児童虐待の悲しいニュースは、後を絶ちません。
その中でも特に衝撃的だった事件は2010年に発生した「大阪西区2児餓死事件」です。
この事件については、由起子さんが個人的に私に話してくださいました。
- 事件概要:2010年7月30日、「部屋から異臭がする」との通報で駆け付けた警察が、2児の遺体を発見。死後一ヶ月ほど経っていた。なお遺体が発見されるまで「子どもの泣き声がする」と虐待を疑う通報が、児童相談所に何度かあったが、発覚しなかった。同日に風俗店に勤務していた2児の母親(当時23歳)を死体遺棄容疑で逮捕し、後に殺人容疑で逮捕した。
- 事件発覚まで:2010年6月9日頃、居間の扉に粘着テープを張った上に玄関に鍵をかけて2児を自宅に閉じ込めて放置し、同月下旬ころに餓死させた。7月29日、勤務先の上司から、「異臭がする」との連絡を受け、約50日ぶりに帰宅した際に子どもの死亡を確認した。死亡を確認した母親は「子どもたちほったらかしで地元に帰ったんだ。それから怖くなって帰ってなかったの。今日一か月ぶりに帰ったら、当然の結果だった」と上司にメールを送信するも、その後はそのまま男性と遊びに出かけ、ホテルに宿泊し、翌7月30日に逮捕されるまで過ごしていた。
wikipedia「大阪2児餓死事件」より
当時、この事件の第一報のマスコミ発表を受けて、コメンテーターやネット上では、母親を「鬼母」と批判し、「母親一人の罪」という認識が、世間に広まり始めていました。
この動きに対して「他人事ではない」と感じたママ、パパ記者たちが一斉に動き出したそうです。
この裁判の傍聴に何度も足を運ばれた由起子さん。
しかし毎回ものすごい倍率の抽選で、全てはずれてしまいました。
でも、はずれるたびに、マスコミの方が由起子さんに席を譲ってくれたそうです。
由起子さんだからこそ発信できることがある、だから実際に裁判を見て伝えてほしい…まわりのマスコミの方々はそう感じていたのかもしれません。
『毎日、朝日、産経、読売、日経、共同通信、NHKの仲間の記者と一緒に傍聴に並んでいたから、裁判が終わるたびに、みんなでメモを見せ合って、感想をシェアしあって、記事を丁寧に作っていってもらいました。
裁判があるたび、報道にのるので、その報道を出すたびに、
「母親一人を責めてはいけない」
というメッセージをこめてもらいました』
「母親一人をせめてはいけない」
由起子さんが、このメッセージをこめたかった理由
この事件の当事者である母親のSさんは、19歳で大学生と結婚し、その後専業主婦のまま、22歳で離婚。
当時2歳と、6ヶ月の2人の子と一緒に、少しのお金も持たされず、実家から遠く離れた地に車で連れてこられ、家族に放置されました。
そうなれば、大阪で水商売をする以外、生きる道なんてありませんでした。
離婚の時に、
「2人の子どもは責任をもって見ていきます。家族には甘えません。しっかり働きます」
など、いくつかの誓約書を書かされ、完全に家族から見放されたSさん。
幼い2人の子どもを抱えながら、周りには誰も頼れる人がいませんでした。
『離婚が、この悲しい事件が起こるという未来を決定づけた瞬間だった』と由起子さんは言います。
この離婚が、悲劇を招いた原因の一つなら、母親のSさん、ただ一人を罪人だと責めるのは大きな間違い
この悲劇は、Sさんを取り巻くすべての人たちが、少しでも手を差し伸べていたら、起こるはずがなかった事件なのかもしれない…
そういう思いから、「母親一人を責めてはいけない」というメッセージを、由起子さんはこめずにはいられなかったのだと思います。
そしてなにより、18歳で妊娠、家族からは勘当され、離婚を経験しながら、誰も相談できる人がいない中で、子育てをしてきた由起子さん…
Sさんの境遇と、自分が重なり、真実を伝えることに、突き動かされていたのかもしれません。
実際に、当時由起子さんは、この事件を客観的に見て、当事者の気持ちや事情を発信することを、マスコミから非常に求められていたそうです。
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由起子さんのお話を聞いたり、傍聴の記録を読んだりしていると、すごく現実味を帯びて、当時の様子が伝わってきます。
事件の当事者であるSさんが、猟奇的な感覚を持った「鬼母」だと感じられる部分は一つもありません。
私たちと同じように、我が子を大切に思い、一生懸命子育てをしていた、ごく「普通」のママでした。
誰も頼れる人がいない孤独の中で、たった一人で子どもを育てなければならない状況になれば、誰でも簡単に陥る事件です。
「児童虐待」は、決して「他人事」ではないし、「かけ離れたもの」でもありません。
Sさんは、裁判のあと、ほぼ毎日、家族や亡くなった子どもたちに手紙を書いているそうです。
手紙の中には、謝罪の言葉とともに、「ママから子どもたちへ」幸せだったころの、ごくありふれた言葉が書かれているのではないか…
想像すると胸が苦しくなります。
杉山春さんの著書「ルポ 虐待ー大阪二児置き去り死事件」には、この事件についての真実や、児童虐待についての分析が、とても分かりやすく、詳しく書かれていますので、更にこの事件について知りたい方はぜひご一読を。
『母親一人が、子どもを育てるのは無理に決まっています。一人で悩まんとって。子育てするのは一人じゃない!』
由起子さんは、この社会から「虐待」をなくすために、そして、どうすれば家庭、地域、社会がよくなるか?ひたすら追求し続け、全国の人に声を届けながら、走り続けています。
ぜひ多くの方に、由起子さんのお話しを聴いていただきたいと思います。
講演会の日程はこちら(辻由起子HP)から
また、由起子さんは、どんなに忙しくても、月に一回必ず「女子会」を開催されています。
誰でも参加できます。
パワースポットと言われるくらい大人気の「女子会」です!
※女子会の様子はこちらのブログをご覧ください
私も一度参加させていただきましたが、全く話すつもりがなかった自分の過去、気づいたらみなさんの前で発表していました(笑)。
実際に行った人にしか分からない、この「女子会」のすごさ…。
最後に
『こうやって出会えたのも、お互い、子育てをしていたからだし、今いる素敵な人たちはみんな、子育てをしていなかったら出会えなかった人たちだし、やっぱり、ママってすごいね』
由起子さんの言葉は、本当に、すべてを包み込む優しさがあります。
みなさん、ぜひ一度、辻󠄀由起子さんとお会いしてみてください。
自分の中で、必ず何かが変わると思います。