初恋の思い出が、大嫌いだった講演の仕事を「好き」に変えてくれた。

どうしてなんだろう?
あんなにやりたかったハズの仕事なのに。

仕事関係の人との雑談混じりの会話。

「いやぁ、できれば講演の仕事はしたくないんでよね。経営にも注力したいですし」

カッコつけていったものの、ほんとうはただ、講演の仕事がしたくないだけだった。
 

子どもの頃から、人前で話すのは好きだった。
中学生の文化祭では、主役として劇にも出た。

たくさんの人に見られるのは興奮するし、嬉しかった。
 

だから、この仕事を始めたとき、講演の仕事がしたくてたまらなかった。

話すのは得意なほうで、きっとこれは天職なんだろうな、なんて思っていた。
なのに…
 

いつの間にか、講演の仕事が嫌いになっていた。
なんだか全然楽しくなかった。

講演から帰ってくると、言いようのない脱力感にさいなまれ、体が動かなかった。

「ああ、疲れた…」

エナジードリンクを飲み、体にムチを入れる。
いつまでたっても生えてこない翼にイラ立ちを覚えながら、講演に向かう日々だった。
 
 
さすがにこれではいけないと思い、ある休みの日に僕はスターバックスへ向かった。

2階建てのそのお店は、1階にレジがあり、そこで注文をおこなう。2階には店員の人もほとんどこなく、とても静かだ。

集中して仕事をしたいとき、ゆっくり考えごとをしたいとき、僕はよくそのお店まで足を延ばす。

一番大きいサイズのチャイラテを注文。
バーカウンターでドリンクを受け取り、階段をあがり、奥にあるソファへとゆっくり腰をおろす。

議題は、「なぜ、講演がたのしくないか?」だ。

600ml近くもあるドリンクを机の端に置き、僕は長期戦覚悟でノートと向き合う。

1人会議。自問自答して、答えを探していく。

今でも話すのは嫌いじゃない。いや、たくさんの人たちの前で話すのは好きだ。
緊張も特にしない。
イヤなこと、苦手なことを話すわけでもない。
自分に沿ったテーマも課されている。
 

 

にも関わらず、僕は全くといっていいほど楽しくなく、苦しかった。
 
いつからだろう…
いつから、こんなに苦しくなってしまったんだろう…
 
思い返してみると、講演の仕事が増えて、頻繁に講演をするようになってからだ。
 
これまでは、たまにしか講演の仕事はなかった。
今は、月に数回あることも少なくない。
 
そこで、ふと気がついた。
 

あっ、もしかしたら….
 
 
そう考えると合点がいく。そうだったのか。

僕は、いつの間にか、講演がうまくなってしまっていたんだ。

ガムシャラにやっていた頃から、だんだん慣れてきて、自分でも気が付かないうちに、うまくこなすようになっていた。
 
ここ最近の講演、参加者の反応があまりよくなかった。

今までだったら、「すっっごく良かったです」だったのに、今は「勉強になりました」「良かったです」と、なんだかみんな杓子定規のような回答をくれる。

せっかく話す機会をいただいているのだからと思い、綿密に準備も重ねていた。
1時間での講演に使うスライドは200枚を越え、準備万端で講演へ向かっていた。
 
でも、反応がイマイチだった。
 

今になるとわかる。
 
僕は、気がつかないうちに、いかに上手に話すか、わかりやすく言うかが自分にとって重要になっていた。

うまくやろう、うまくやろうと思っていた。

心の底で、失敗するのを恐れ、常に平均点をとろうと思い、守りに入っていた。

 
僕は、「これって告白と同じなのかも知れないなぁ」と、ひとり、中学のときの初恋を思い出していた。
 
中学1年生の秋。
クラスにいた女子に恋をした。
 
バドミントン部に入っていた彼女は、よく笑う、明るい子だった。  
 
少しずつ一緒に話す機会が増え、中学2年生になってもクラスは同じだった。
 
仲が良くなっていくうちに、好きという気持ちは強くなっていった。
 
僕は野球部で、教室の窓をのぞくと、自分のほうをじっと見ている彼女の姿が目に入る。
2人きりで話す機会も増えていき、気持ちは募るばかりだった。
 
しかし、中学3年生になってクラス替えで離ればなれになるまで、僕は自分の気持ちを伝えることはなかった。
 
気持ちを打ち明けるのには勇気が足りなかった。
「好き」と言って、拒絶されたあと、関係が悪くなるのが怖かった。
 
伸るか反るかの賭けにでることはなく、僕はただ現状維持という選択肢を選んだ。
 
 

 
今、自分の講演も同じだと、自分と向き合っていて思った。
 
告白をしなかった中学生のときと同じように、失敗を怖がり、僕は自分の気持ちを伝えることもなく、ただ上手に話すことに終始していた。
 
「受け容れてもらえなかったらどうしよう」と不安に思い、無難なことばかりを話す。
 

 
気持ちを打ち明けない限り、今以上に仲良くなることはできない恋愛と同じように、講演で、自分が思っていることを本気で伝えようとしていなかった。
 
だから、誰の心も魅了しない。
70点の講演しか、出来ていなかった。

誰かに嫌われること、フラれることはないけれど、「大好きっ!」と慕われることも、決してなかった。
 
 
「あのとき、告白しておけば…」と、中学を卒業をしてから何度も思った。
もう2度と後悔することはしたくない。
 

 
 
次の日から僕は講演のスタイルを変えた。
周到な準備は、やめにした。
スライドの数も20枚ほどにまで減らした。
 
手を抜こうと思ったわけじゃない。

ただ用意した内容を話すのではなく、その場の様子や雰囲気を見ながら、自分が思うことをありのままに話そうと思った。
 
1人1人の参加者へ気持ちを伝えるように、思いの丈を話すことにしたのだ。
 

スタイルを変えたあとに初めて望んだ講演の日。
今まで緊張もしなかった講演で、膝が震えた。
怖かった。
 
スライドはほとんどなにも書いていない。
 
失敗したらどうしよう。
言葉が出てこなかったら…

今までなんともなかった講演が、初めて怖いと思えた。
 
 

 
無事に講演が終わったあと、参加者の人が何人も僕のところへやってきた。
これまでそんなことなかった。  

「すごく良かったです!!」
 
中には涙を流しながら僕のところへ感想を伝えてくれる人もいた。
 
 
ああ、この言葉が聞きたかったんだ。

自分の気持ちを抑え、ただ失敗しないように平均点の講演をこれまでしてきた。
参加者の人たちからの反応もなく、手応えもない。
だから、僕は全く楽しくなかった。
 
まるで無感情の人たちに話しているような感覚に陥った。
 
でも、その反応を引き起こしているのは、誰であろう、自分自身だった。
 
うまく話すことをやめて、自分の気持ちを伝えることをすることで、参加者の人たちの反応は明らかに変わった。

それからというもの、僕はまた講演という仕事が大好きになった。
 

 
今でも、「ちゃんと話せるだろうか」「もっとちゃんと準備したいな…」と不安に思うことはある。
 
しかし、生放送のような、アドリブ満載の講演は、毎回毎回が真剣勝負で、とてもしびれる楽しい時間でもある。

拒絶されるかもしれない。
何言っているんですかと、責められることもあるかもしれない。

でも、僕はこれからも、自分の想いをキチンと伝えていく。
 
へたくそでもいいじゃないか。
 
うまく話そうなんて気持ちをぶちこわして、ただ気持ちを、感情を言葉に込めて、思いを伝えていく。

初恋の女の子に、恋心を伝えられなかった思い出を胸に秘めて。
 
 

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この記事を書いた人

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒

中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。
しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。
野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。
浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。
友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。
フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。
京都新聞にして子育てコラムを連載中。
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