大人を代表して、子どもに謝らないといけないことがある

はらわたは、煮えくりかえっていた。
先生にも、言いたいことはある。
「どうして……」という気持ちもある。
でも、やっぱり自分自身に対してのほうが大きい。
くそ……。
なにも出来ていない自分に、腹が立つ。
自分は、ただ聞くしか出来ないのか……。
今スグにでも、学校へ殴り込みをかけ、大声で叫びたかった。
でも、それはさすがに出来ない……。
「先生、ちゃんと分かってますか?」
怒りを通り越し、もはや憐憫かも知れない。
もし、気がついていないのだとしたら、笑うしかない。
僕は、やはり子どもたちに謝らないといけないと思った。
もう、心の底からの懺悔だ。
僕たちは、とんでもないことをしているのかも知れない。
絶対に裏切ってはいけないのに……。
でも、僕たちはいつも、裏切っている。
そう。何度も、何度も。
それは、突然おとずれた。
親御さんから、メールが届いた。
「うちの子、学校がイヤって言ってるんです。それで、今日は休ませることにしました。良かったら話し、聞いてあげてください」
今までは、楽しく学校へ行っていた。
もちろん、イヤなこともいっぱいあったとは思うけれど、問題なく登校していた。
でも、「行きたくない」は、突然おとずれた。
教室へ入ってくるなり、小学6年生の彼女は、「ちょっと聞いてっっっ!」と言いながら席に着いた。
「あんなぁ〜」
そこから、溜まっていることを話しはじめた。
自分だけガンバっているのに、他の子が全然ちゃんとやらないこと。言っても無視されること。
先生も気がついているハズなのに、なにも言わないこと。
先生がスグえこひいきすること。
お酒を飲んでいるのかと思うほど、彼女は冗舌になり、思っていることを全てさらけ出すようにしゃべった。
「もう、疲れてん……」
彼女は、言った。
「いや、もうすぐ卒業やし、もうええねんけどな。どうせ、先生は分かってくれへんし、すぐえこひいきするし……」
先生は、私のこと分かってくれると思う? と聞くと、
「そんなん思うわけないやん」と、即答。
「全然分かってくれへんで。こっちの話しなんかなんも聞いてないし、特定の子だけに味方するし。ほんま最悪やわ」
僕は、彼女の話しを聞きながら、「まずいな……」と思った。
これは、まずいなと、思った。
予想通りと言うべきか、危惧したことが起きてしまったと言うべきか。
彼女は、続けざまに言った。
「大人なんか、信用でけへんねんっ」
あぁ……。
やはり、か。
僕は、その言葉を聞いて、彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
心の底から謝りたいと思った。
先生が実際にえこひいきをしているかは、分からない。
彼女に対して、真摯的な態度を取り、できるだけ分かってあげようと思っているのかも知れない。
でも、実際には、彼女は「分かってくれない」と思っている。
それが、全てだ。
彼女は、もうその先生を見切った。
信頼は、失墜してしまっている。
もう、取り戻すことはできないだろう。きっと。
僕は、先生を責める気持ちよりも、大人を代表して謝りたいと思った。
「大人を信用できない」と思わせてしまったのは、他ならぬ僕たち大人、だ。
先生一人の責任ではない。
大人たちみんなの責任だ。
きっと、彼女だけではないだろう。
「大人なんて信用できない」と思っている子どもたちは。
僕は、とにかく悔しかった。
悲しかった。
残念でならなかった。
あれだけ、「そうはさせない」と決めていたのに……。
僕が子どもの頃、彼女と同じように思っていた。
「大人なんて誰も信じられない」と思っていた。
あれは、小学5年生のときだっただろうか。
クラスメイトの男子をいじったことがあった。
いじられた彼は、先生に告げ口をした。
「こんなこと言われた」と。
それを聞いた先生は、いじっていた僕たちを全員廊下に正座させ、説教を始めた。
「あなたたち、なにをしたか分かっているのですかっ!」
50歳近くなる天然パーマのおばさん先生は、ヒステリックに金切り声をあげた。
しまいには、泣きながら、「そんな子に育てた覚えは、ありませんっ!」と言う。
僕たちは、口をあんぐりさせ、「この人はいったいなにを言っているんだろう」と思った。
今だと、人を傷つける言動をしていた自分たちに非があると分かる。
でも、子どもだった僕たちには、それが分からなかった。
ただ、楽しく、からかっただけだった。
他意は、ない。
その先生は、僕たちがなにかを言う隙を一切見せず、ただ一方的に話しをした。
言いたいことはたくさんあったけれど、言葉を発することはなかった。
「この人には、なにを言っても無駄だ」と思ったから。
大人は、なにも聞いてくれないし、理解しようとすら思ってくれない。
僕は、そのときに確信した。
「大人は、信用できない」と。
だから、高校生で不登校になったとき、「どんなことでも聞くから、なんでも相談してくれ!」と言った先生の言葉も全く信用できなかった。
大人は、なにも分かってくれないし、話しをちゃんと聞いてくれない。
どうせ誰も自分のことを分かってくれない。
子どもの頃、ずっとそう思っていたから、小学生の彼女が「先生とか全然信用できひん」と言ったことは、痛いほどよく分かった。
でも、僕はもう大人側の人間だ。
自分と同じような寂しさや悲しさを感じさせている大人として、謝る必要がある。
「先生も大変なんだよ?」という言葉は、彼女には届かない。
そんなこと、子どもにとっては、知ったことじゃない。
今なら、分かる。
学校の先生が、全ての子が満足できるように全ての話しを聞くことは不可能だ。
おうちの人も、ずっと子どもの話しを聞いてあげられることも難しい。
分かってくれない。聞いてくれない。
さびしい思いをさせているのは、全て大人の責任だ。
でも、僕は大人を責めることはできないとも思う。
先生も保護者も、みんな全力で子どもと向き合っている。
なんとかしたいと思っているけれど、その余裕がないのだ。
だから、僕たちは、大人を代表して、いくらでも子どもの話しを聞こう。
スナックで愚痴るサラリーマンのように、「ちょっと聞いて〜やぁ〜」と言ってくる思春期の子どもに寄り添おう。
学校や家では、ずっと話しを聞くことは難しい。
でも、TRY部ならできる。
だって、ここは「自分のことを分かってくれる大人がいる」と子どもが思える場所だから。
「先生、全然分かってくれへん」
「なんなん、大人話し、聞けへんやん」
大人に不満を持っているならば、その愚痴、TRY部がいつでも預かります。
TRY部 体験したいかた募集
対象:中学1年生 〜 大人だけの参加もOKです。
(大学生も参加できます!)
参加費:無料
場所: 草津市立まちづくりセンター(JR草津駅すぐ)
持ち物:筆記用具
受付日:毎週月曜日に体験を受付しております。
時間:19時15分までに草津市立まちづくりセンターの教室にお越しください。
申込み方法:info@dlive.jp まで、「TRY部体験参加」と記入し、お名前と学年(年齢)、簡単な動機、参加希望日を書いてお送りください。
※ お問い合せもinfo@dlive.jpまで