高3ヤンキーの悩みを聞いて、やっぱり子どもには○○が大事と思った話

僕は、今でも彼のことを忘れることが出来ない。
「あんな、ほんまは大学行きたいねん」
王将のカウンターに座り、僕は彼の話をじっと聞いていた。
大阪のNPOでインターンをしていた頃。
(今の団体を立ち上げたとき、勉強のためインターンをしていた)
キャリア教育の授業で高校を訪れた。
秋の風が吹いていた、少し肌寒いときのことだった。
授業でどんなことをしたのかは、あまり覚えていない。
彼は、クラスにいた。
茶髪でピアスをし、制服のシャツはだらしなくズボンから出ていた。
高校3年生の彼は、いわゆる”やんちゃ”そうな少年だった。
どうしてなんだろう。
細かく理由を覚えていないのだけれども、僕は彼と仲良くなった。
授業が終わり、帰り支度をしていると、彼が声をかけてきた。
「ご飯食べに行こうよ!」
友達かっ!と内心思ったけれど、なにか言いたそうにしていたので、「いいよ」とこたえた。
しばらくたつと、学校が終わり、彼は校門から出てきた。
僕たちは、彼が「バイトしてるねん」という王将へ向かった。
このときは、まさか彼の言葉が僕の心にずっと残るなんて思ってもいなかった。
カウンターに座り、とりとめもない話をする。
「バイトどうなん?」「しんどいの?」と、僕が聞く。
「どんな仕事なん?」「大変?おもしろいん?」と、彼が聞く。
運ばれてきた中華スープを飲みながら、会話を続ける。
流れで、なにげなく聞いた問い。
「進路どうするん?」
11月が終わりに近づいていた頃だった。
彼は高校3年生。
人生の分かれ道。
彼は、チャーハンを食べていた手を止め、小さなため息をつき、こう言った。
「まだ、悩んでる」と。
ああ、これか。
彼がご飯を誘ってきたのは、きっとこの話がしたかったからなんだ。
「俺の学校はアホやから、だいたいみんな就職するねん。あとは、専門学校かな」
「自分はどうするん?」と、僕はあえて軽い感じで質問をした。
「悩んでる。まだ、わからへん」
その表情は、さっき学校で楽しそうに騒いでいた彼の顔からは想像出来ないくらいだった。
少しの沈黙があり、彼は言った。
「ほんまは、大学行きたいねん」
ああ、これがホンネだなと思った。
彼が僕にわざわざご飯に誘ってまで話したかったのは、これだった。
彼は続ける。
「ほんまは大学行きたいなって思ってる。けど、うちの学校あほやから、大学行くやつなんかほとんどおらへんねん」
店内では、ギョウザを焼く音だけが響き、僕は彼の話にじっと耳をかたむける。
「専門学校もいいかなと思うけど、別にやりたいこともないし。まぁ、大学も一緒やけど。したいこととか別にないけど」
彼はまるで自分自身と対話するかのように、言葉を探しながら語った。
「俺な、あほやねん。勉強嫌いやし、できひん。やからな、大学行きたいとか言われへん」
僕の予想は、あたった。
彼は、誰にも言えない相談をしたいから僕を呼んだんだ。
「誰もな、俺に大学行くことなんか期待してないねん。親も先生も。もちろん、友達も」
やんちゃに思えた彼の顔は、どこか大人びて見えた。
彼は、賢い。
彼は、優しい。
勉強は出来ないかも知れないけれど、周りや自分がよく見えている。
自分の立ち位置も良くわかっている。
「大学行きたいって言うても、勉強できひんくせになに言うとんねんっ!ってなると思うねん」
その通りだろう。
きっと彼が「大学に行きたい」と言えば、「じゃあ、もっと勉強しろ!」と大人は言うだろう。
「なに寝言を言うてるねん」と一笑されて終わるかも知れない。
彼がどこまで本心で大学に行きたいのかはわからない。
ただの憧れかも知れない。
ただの乱心なのかも知れない。
ただの現実逃避なのかも知れない。
でも、今語っている気持ちは、本心だろう。
ああ、これって自分と同じだ。
僕は、高校生の自分と彼を重ねた。
プロ野球選手になると息巻いて入学した高校。
しかし、僕は期待される選手ではなかった。
誰にも見向きされない。
誰にも期待されない。
気が付いたときには、心は折れていた。
人から期待されないことの辛さは、僕自身が痛いほど経験してきた。
プロ野球選手になりたいと言ったら、みんなから鼻で笑われた。
中学生にもなって何を言っているんだろうと、周りの人たちは思っていたんだろう。
彼も同じだ。
やりたいことは、ある。
でも、不安で心配で、そして怖い。
「大学へ行きたい」と言えない。
足りないんだ。
持てないんだ。
自信、を。
「大丈夫」と背中を押してくれる人が、彼にはいなかった。
自信をつける方法は、成功体験だけではない。
たった一人でも、味方になってくれる人がいれば力が湧いてくる。
僕は、自信がなくて、将来を諦めた。
部活を続けていたからといってプロ野球選手なれたかどうかは、わからない。
でも、「諦める」と「満足して辞める」には天と地ほどの差がある。
彼も同じだ。
自分の中でしっかりと満足して、進路を選んでくれたらそれでいい。
ただ、自信がないからという理由で、将来の選択肢を自ら閉じることだけはやめて欲しい。
そう思いながら、僕は彼に言った。
「周りの目が気になるのは、わかる。でも、大事なのは、やりたいかやりたくないか。勉強なんかガンバればどうにかなる。キミの人生や。人の期待とかどうでもいいねん。後悔する生き方、選択だけはやめたほうがいい。
大丈夫。キミなら出来るよ」
どこまで伝わったかは、わからない。
僕は、彼に勇気を与えることが出来たのだろうか。
彼は、満足な決断が出来たのだろうか。
僕は、今でも彼のことを忘れることが出来ない。
彼は、自分のホンネを話せる人が周りにいなかった。
「大丈夫だよ」と言ってくれる人がいなかった。
この社会には、彼と同じように苦しむ子がたくさんいる。
子どもたちが、彼みたく苦しまないように、自信を持てるようにしたいと思って今の活動をしている。
自信が持てなくて自分の将来を諦める、選択肢を狭めるのは、どうかどうか辞めてほしい。
トラウマを抱える経験をするのは、僕だけで十分だ。
子どもたちには、自分の未来に期待が出来るようになって欲しい。
大きい夢なんて描かなくていい。
ただ、自分も出来ると思って欲しい。
やりたいに向かって、一歩を踏み出して欲しい。
その後、彼がどうしたかは知らない。
でも、僕は彼の言葉を忘れない。
彼との出会いは、僕が活動をしている原点だ。
今、どうしているかはわからないけれど、幸せに暮らしていたらいいな。