「自分」と言うフィルターを通す―「アイ・メッセージ」と言う伝え方

この間、混み合う終電間際の電車に揺られていたときのこと。
同じ車両から「フタ閉めろよ!早く袋に入れろよ!」という男の怒号が聞こえてきました。しかし立つ人も多く、どんな人が何に対して怒っているのか一切分からない状態。その後降りる駅に着いてようやく誰かが水をこぼしたのだと判明したのですが、一連の男の怒号で一番引っかかったのが、この言葉。
「他の人の迷惑になっとるやろ!」
・・・確かに、水をこぼされた周囲にとっては激しく迷惑だと思います。よりによって満員電車でこぼされたらそりゃあもうたまったもんじゃないというのは理解できます。
だけど、どういう状況か分からない静まり返った電車の中で、大声で「他の人の迷惑になっとるやろ!」と我々をひとくくりにして叫ばれても、僕からすれば迷惑なのはそのあんたの怒鳴り声だよ、という気持ちにしかならず、それを指摘しようにも誰が怒っているのかわからないので、結局モヤモヤしたまま電車を降りたのでした。
注意するときに「自分」と言うフィルターを通すということ
これに限らず、往々にして公共の場で「みんな迷惑してるでしょう!」と注意する人がいますが、結局、実は迷惑しているのは「自分」ひとりだけなのに、「みんな」と誇大表現を用いて人に注意していることも多々あります。中には「一緒にしないでほしい」と「みんな」とひとくくりにされることの方が迷惑だと思う人もいるでしょう。
じゃあどうすればいいの、と言う声が聞こえてきそうですが、そのときに有益な手段の一つに「アイ・メッセージ」(I Message)というものがあります。
「アイ」(「I」)、つまり「私は」というフィルターを通して相手に伝える。「私は迷惑している」という伝え方をすると、他人がどう思っているかはさておき自分はちょっと嫌なので止めてほしい、と相手に伝えることができます。こうすれば、もし自分だけが迷惑しているときに相手にも関係ない第三者にもトゲのある伝え方にはなりません。
そして、この「アイ・メッセージ」は日常の様々なところで大きく役立つ伝え方でもあります。
TRY部から考える「アイ・メッセージ」
TRY部は話を聞く場所、ということはここで何度も書いています。そして目標を立てるときは「その目標を達成するのは自分(スタッフ)ではなく生徒」ということを意識してサポートするのですが、時折どうしても目標を立てる上で何かアドバイスが必要な場面というのもあります。そのときに有効なのが「アイ・メッセージ」。
ここはこうした方がいい、と「僕は」思うよ。まずはこれから始めて行った方がいい、と「私は」思うな。
間違っても「みんなこう思ってるよ」という雰囲気やワードを使わず、「自分は」こう思うというメッセージを伝える訳です。こうすることによって固定概念を植え付けることもなく、またメッセージを発する側もアイ・メッセージによって「他の人はまた違う考えかもしれないよ」というヒントも同時に与えることができます。
これはTRY部でのアドバイスに限らず、子育ての場面でも十分に応用できます。例えば子どもがなかなか物を片付けないとき、「早く片づけなさい!」と大声を出すのではなく「片付けてくれるとお母さんは嬉しいな」という表現に置き換えると、同じニュアンスなのにずいぶんと印象が違いますね。
ひとつ重要なのは、いくら「私は」を通して指示や注意をしても、それが自己勝手なものならば「アイ・メッセージ」ではない、ということ。「私の用事に間に合わないから早く靴履きなさい!」などという注意はただその人の都合に相手を振り回しているだけなので「アイ・メッセージ」とは言えません。
「私はこうしてくれると嬉しい」「自分はこう思う」。自分の意見を「世間」「みんな」と言うフィルターではなく「私」というフィルターを通すと、人間関係や子どもとの関わりがまた少し違ったものになってきます。是非お試しください!