勉強は、筋トレのようなもの〈連載小説⑦〉

〈小説連載①〉イライラしてしまう思春期の子どもへの関わり方

思春期の子が自信を失う理由。〈連載小説②〉

母親失格。〈連載小説③〉

なぜ、子どもは勉強のやる気がないのか? 〈連載小説④〉

「やればできる」と思えるためには?〈連載小説⑤〉

学校で立てる計画がうまくいかない理由〈連載小説⑥〉

「どうやって自信ってつければいいのでしょうか? うちの拓海も、全然自信がないみたいで、なにやっても、めんどくさいって言うのです」

「自己効力感のときに、”成功体験”が大事だという話しをしましたよね?」

「はい」

「でも、成功体験って難しいんですよ。勉強が苦手な子が、勉強が結果でるまでには時間がかかりますし、途中にイヤになってしまう」

「そうなんです。なかなか結果でないので、成功体験が大切なのは分かっていても、うまくいかないんです」

「これね、簡単なんですよ」

「え? 簡単なんですか?」

「TRY部で、計画を立てていることは言いましたが、計画を立てるときに大切にしていることがあります」

「なんでしょうか?」

「目標のハードルをできるだけ下げるのです」

「下げるのですか?」

「そうです。もう、めちゃくちゃ低い目標を立てさせる」

「低い目標というと、どれくらいでしょうか?」

「9割くらいは達成できる目標です。少しだけガンバったらできるものです。計画を立ててよくあるのが、自分でハードルを高くしすぎて、イヤになることです」

「はい。後で後悔することがよくあります」

「だから、できるだけ低くて、うまくいきそうな目標を立てるのです」

「それでいいのでしょうか?」

「いいんですよ。高い目標を立てすぎてイヤになるよりも、できそうだと思う目標を立てたほうがモチベーションが高まるのです」

「私は、ずっと高い目標を立てないとダメだと思っていました」

「それね、ダメなんですよ。よく大人が、”高い目標を立てよう”って言うのですが、それをするとガンバれなくなっちゃうんです」

「どうしてでしょうか?」

「自己効力感が高くて、できると思うならいいんです。その目標に対してガンバればいい。でも、自信がない子は、できると思えないから、高い目標を立てたところで初めから諦めてしまっているのです」

「たしかに。どうせ無理と思うから、私は目標を立てることができなかったです」

「そうなんですよ。だから、目標はできるだけ小さく立てるのです。もうバカみたいに小さな目標を立てる」

「バカみたい、ですか?」

「はい。うちの生徒で、勉強が苦手な生徒がいました。そこで、毎日勉強しようということになったのですが、どんな目標を立てたでしょうか?」

「毎日、30分以上勉強する、とかでしょうか?」

「30分は、ちょっとしんどいですねぇ。勉強が苦手な子は、30分でもだいぶしんどいです」

「では、10分?」

「いいえ。正解は、1分です」

「1分……ですか?」

「そうなのです。1分なんて意味がないと思いますよね。そんなこと誰でもできると」

「はい。正直、そんな目標を立てても意味がないと思ってしまいました」

「でもね、勉強の習慣がついていない子にとっては、たとえ1分だとしても、毎日勉強するのは挑戦なのですよ。だって、今までやったことがないことなのですから」

「たしかにそうですよねぇ。それで、やってみてなにか変わるのでしょうか?」

「1週間後、その生徒はこんなことを言ったのです。”1分は余裕やったわ。次は、2分に挑戦するわ”ってね。こうやって少しずつ少しずつ、やっていくのです」

「彼にとって、1分勉強するというのが、成功体験になってのですね」

「はい。やればできるって思うことができたのです。だから、たかだか1分だからと言ってバカにできないのですよ」

「本当ですね」

「もし、仮に、子どもが親御さんに、毎日1分勉強しているって言えば、どんな反応になると思いますか?」

「もっとやりなさいって言ってしまうと思います……」

「僕たちは、”すごいやんっ”と言うのです。すると、”自分は結構すごいことをやったんだなぁ”と満足して、成功体験に繋がるのです。だから、まずはスタートは小さな小さな目標を立てるのです」

「そうやって出来ると思える目標を立てて、成功体験を積み上げていくのですねぇ」

「僕は、どんなことだって筋トレだと思っています」

「筋トレ?」

「5kgのバーベルしか上げられない人が、いきなり100kgのバーベルをあげようとすればどうなるでしょうか?」

「ケガをする……?」

「そうです。まずは、5kgが持てる人は、次に10kg、20kg、30kgと、順番に重さを増やしていきます。勉強でも同じです。いきなり30分も勉強するなんてできないのです」

「少しずつ筋肉をつけていくことで、できることが増えていくのですねぇ」

「その通りです!」

 

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この記事を書いた人

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒

中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。
しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。
野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。
浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。
友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。
フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。
京都新聞にして子育てコラムを連載中。
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