今一度、起立性調節障害のことを知ろう―子どもが「朝起きられない」とき、どうすればいいの?

朝、もうそろそろ学校へ行く時間なのに、子どもがまだ部屋から出てこない。
様子をうかがうとまだ寝ている。このままだと、遅刻する・・・。
そんなときに、「いい加減に起きなさい!」とむりやり布団をひっぱがすか、「いつまでも怠けてるんじゃない」と一喝するのか。実はこの両方とも、かえって逆効果、むしろどんどん悪影響を及ぼす可能性があります。それがたとえ、夜になったらウソのように元気な姿を見せていても、です。
自律神経の調整がうまくいかず、身体に血液がうまくめぐっていなくて起き上がることに苦労する。これはけっして怠けでもサボりでもありません。れっきとした「起立性調節障害」という診断名がつく、病気としてカウントされます。
このコラムで過去、「朝、起きられない」というテーマを2度ほど書いてきました。
そのたびに、反響に驚かされました。「起立性調節障害なんて知らなかった」と驚きの声を送ってくれた友人もいました。無理もありません。起立性調節障害は、頼みの綱のお医者さんでさえ、「怠け」とか「うつ病」と誤認してしまうこともよくある症状なのです。
「起立性調節障害」にも、いろいろある
一口に「起立性調節障害」と言っても、実はタイプが4つあります。以下に簡単にまとめると、
a. 起立直後性低血圧
→起立直後に大きく血圧が低下する
b. 体位性頻脈症候群
→起立してから血圧が下がることはないが、心拍数が増える
c. 血管迷走神経性失神
→起立中の血圧低下が元になり、意識が朦朧としたり場合によれば意識消失発作を起こす
d. 遷延性起立性低血圧
→起立してからしばらくしたあと、3分~10分後に血圧が低下する
となります。冒頭でも書きましたが、これらはいずれも原因は自律神経の調整がうまくいかずに体内の血液のめぐりが悪くなり、寝ている状態から急に身体を起こすと脳に血液が届かなくなっていわゆる貧血状態を起こしてしまうものによります。
この症状は、日々のストレスなど心身的なきっかけはもちろんありますが、ある日突然出ることもあります。言い換えれば、本人は「学校に行きたい」と思っているにも関わらず、身体が悲鳴をあげて朝起きられなくなった・・・ということも、十分にあるのです。
また、この症状が突然明日ピタッと収まって学校に行けるようになることは、まずありません。症例がピックアップされた書籍を後述しますが、どのケースも数ヶ月~数年単位での治療ということになっています。場合によっては服薬しての治療というケースも散見されます。
なお、ただ朝起きられないだけでは「起立性調節障害」とみなされないケースがあります。たとえば、朝起きることができないが、それ以外は心身的な不調も自律神経の乱れもとくにない場合、それは単純に睡眠時間が後ろにずれているだけ、という見解に至ることがあります。
もっともこのケースも「睡眠相後退症候群」と別の診断名があるので、怠けや生活リズムの乱れと簡単に片付けるわけにはいかない上、この睡眠時間が後ろにずれる影響で自律神経の反応が鈍くなるケースもあり、いずれにせよ関わり方には要注意ということに変わりはありません。
「起立性調節障害」と、どう向き合えばいいのか
もう何度も書いていますが「朝起きられない」起立性調節障害は、非常に誤解される病気です。
自分だって朝起きて仕事に行くのが辛いのに・・・という気持ちで、なかなかベッドから抜け出せない子どもを無理やり起こそうとすれば、子どもは体調を崩し、そして親子関係にも溝がどんどん深まっていくことでしょう。そもそも、朝起きられないメカニズムは、きちんと実証されているのです。
心から朝起きてほしいと思うのならば、まずはこの病気のことについてきちんと知りましょう。
起立性調節障害と向き合うには、まず「理解する」ことからはじまります。
なかには、実はかなり無理をして学校に行き、とんでもなくストレスが溜まった状況で、ある日突然朝起きられなくなる症例もあります。そんな子どもに「怠け」や「サボり」というレッテルを貼ることは、かえって子どもを苦しめ、朝起きられない自分はダメな人間だ、と自己肯定感を下げることになります。
自律神経の乱れは、夜になるにつれて正常になっていきます。朝起きられない起立性調節障害の患者が、冒頭で書いたように夜になると元気な姿を見せるのはこのためです。でも、だからといって「今夜は元気なんだから、明日の朝こそ!」と思うのは、あまりにも危険です。
たとえ夜が元気でも、本人がやる気でも、朝起きることに失敗したときは、慌てず騒がず温かく見守る気持ちが大切です。もちろん長期的に見れば朝起きることが重要になりますが、今日明日どうにかなる可能性は限りなく低いことを把握しておきましょう。
そのうえで、「いつか必ず絶対に朝起きられるようになるからね」と、焦らずに子どもを信じることがとても重要です。起立性調節障害の治療では、本人よりもまず「動揺する親を冷静に保たせる」ことが出発点となる場合が多いそうです。
なんで起きられないの?という親の動揺は、当事者である子どもに露骨に伝わってしまうのです。
「起立性調節障害」に関する書籍ガイド
起立性調節障害に関する本は徐々に増えつつあります。最近では図書館でも目にする機会が増えてきました。最後に、本記事を書くのにも参考とした、この誤解されがちな病気のことを詳しく解説している本を3冊、ご紹介します。
a. 田中大介『やさしくわかる子どもの起立性調節障害』(洋泉社)
著者は小児科のお医者さんです。
この本は、起立性調節障害に関する詳細な説明の前にまず、実際に診断された10人の患者の症例からスタートしています。その後に起立性調節障害のメカニズム、さらにサポート方法について詳述する、という構成となっています。
ほかの起立性調節障害の患者はどのような症状だったのか、はたまた生活リズム、そこから立ち直ったきっかけは、などなど、様々なケースを知りたい人にとっては有益な一冊かな、と思います。もちろん起立性調節障害について、基礎的な部分から説明もなされているので非常に読みやすいです。
b. 森下克也『うちの子が「朝、起きられない」にはワケがある―親子で治す起立性調節障害』(メディカルトリビューン)
こちらもお医者さん目線による一冊。
この本では、起立性調節障害そのものはもちろんのこと、思春期に多い心の病気や、発達障害などの目線からも書かれています。起立性調節障害のみならず、子育て本としても非常に有益なことが書いてあります。また、起立性調節障害と混同しがちな病気についても丁寧に説明なされています。
また、薬物療法に関する項では、漢方薬の効き目について触れられています。僕は薬剤師でもなんでもないので詳しくは本に譲りますが、こうした治療方法があることを知っておいて損はないと思います。
c. 武香織『朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から』(中公新書ラクレ)
これは2ヶ月前の記事でも取り上げた本ですが再度ご紹介。
a.もb.も著者は「起立性調節障害」と診断を下すお医者さんです。しかしこの本は、我が子が「起立性調節障害」と診断されたお母さんが著した書です。こうして起立性調節障害を当事者の目線で取り上げた本は、この一冊しか知りません(情報リサーチ不足なのかもしれませんが・・・)。
息子が診断されてから、食生活や睡眠リズムなどどのようなことに気を遣ったのか、また周囲への配慮はどういうものだったのか、さらには当事者同士の座談会・体験談まで、なかなかお医者さん目線では掘り下げることのできない起立性調節障害の「リアル」が詰まっています。
以上3冊をとりあえず挙げましたが、書籍によっては「起立性調節障害チェックシート」が付録でついているものもあります。もちろんこれで判断せずに最終的な診断をお医者さんに仰ぐ必要があることを前提として、簡単に照らし合わせることもできます。ご参考になれば、幸いです。
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