「不登校をなくす」のは、絶対無理です。
教職課程に在籍していることもあり、たびたび教員志望の方と話す機会があります。
で、自己紹介などで「どんな先生になりたいか」という話題になるのですが、そこでたまに「自分は不登校をなくしたい」と宣言される方がおられます。その心は、誰もが毎日学校に来るのが楽しみなクラスづくりを目標にしている、こんなクラスを作りたい、というもの。
でも僕はそんな話を聞く度にいつも思うのです。
不登校をなくすのは、絶対無理です。
何度か書いていることですが、いま、日本には約1000万人の小中学生がいます。
その約1000万人の小中学生「全員」が、ひとり残らず、毎朝8時半にどこかしらの学校へ登校し、クラスにある自分の席についている世界を想像してみてほしいのです。「クラス全員」ではありません。「日本中の小中学生全員」です。だからつまり、8時半の時点で電車や街中はもちろん、家庭にも小中学生が絶対にいない世界。
「不登校をなくす」というのは、つまりこういう世界なのです。
僕はこんな世界ならば、間違いなく生きていく自信はありません。
「小中学生」と区分される人たちが、ひとり残らずみなこの時間にまったく同じ行動を取っている。たぶん、ロボットじゃないとなしえない世界でしょう。もしもこんな世界があったのなら、僕は「なんで同じ行動を取らなきゃいけないの?」と疑問を投げかけます。果たしてきちんと回答できる先生はどれくらいいるでしょうか。
子どもたちの中には集団行動じゃないと落ち着かない子もいれば、逆に集団行動を大の苦手とする子もいます。人間関係もありますが、中にはそもそもの教室の雰囲気、風景に嫌悪感を示す子どもたちもいます。そう言った子が、例えばわざと5分ほど遅刻してみたり、最初から学校に行かないという選択肢を取る訳です。
こういう子に集団行動や学校生活を強要させると、よけいに教師・学校への不信感が募ることになってしまいます。
もしも学校教育法なり今の日本の教育システムが劇的に変化するのならば「不登校をなくす」という道筋ができるのかもしれませんが、この現状ではまず間違いなく「不登校をなくす」ことはできないと考えるべきです。
じゃあ、どうすべきなのか
不登校はなくせません。極論を言えば、関わる子どもたち全員に、明日突然学校に来なくなるリスクはあります。
そして、自分が思い描く「楽しい教室」「誰もが学校に来たくなるクラス」は、あくまでも自分の中の理想像であって、実際に子どもたちがそう思っているかはまた別問題になってきます。当然、良かれと思ってやっていたことが子どもたちにとって苦痛なこともありますし、大きなズレがあって当然という認識は持つべきです。
では、万が一自分が関わる子どもが不登校になってしまった場合は、どうすべきなのか。
もしも怠けによる欠席であっても、「怠け」の原因をうやむやにしたまま「学校に来なさい」と叱ったところで、子どもたちは動きません。どんな些細なことでも「怠け」の原因を突き止めない限り、すんなりと学級復帰というシナリオなんて描けないでしょう。
例えば、弊団体の事業「TRY部」に来ていた生徒は不登校気味で昼夜逆転の生活を送っていました。これだけ書けば「怠け」だと思われるかもしれませんが、この生徒はある事情で考えていた学校への進学を諦めざるを得なくなり、新たな進学先や目標も見出せず「生きる希望を失った」ことで学校がしんどくなったのでした。
のちに生徒はTRY部を通して「昼夜逆転を直す」という小さな目標から生活をコツコツと立て直し、無事新たな進学先を見つけて合格して、今ではすっかり高校生活をエンジョイしています。一度生徒の担任の先生がTRY部に見学に来られたのですが、学校とは違う彼の表情にとても驚いた、という感想をいただきました。
もちろん、前提として「ケースバイケース」であることは確かですが、「不登校はいけないことである」「学校に行かないことは駄目なことだ」という固定概念だけは、どうか取っ払ってほしいと思います。そして自分の主観を押し付けず、困難を抱える生徒と適度な信頼関係を築くことが何よりも大事です。
不登校はなくせませんが、「不登校(の子ども)との付き合い方」はいくらでも考えられますし、実践することはできます。「不登校」という多様性を先生方が認めてあげることが、今何より大事なのではないか、と思っています。
お知らせ:「子どもたちのココロが分からない!」という先生方に、おすすめしたい冊子があります
2015年から発行している「子どもの自信白書」。第2巻となる「子どもの自信白書2016」は、子どもの考え方・大人(親)の考え方の「ズレ」に着目して、子ども・大人それぞれの本音を引き出した特集を組みました。
そして長年不登校の子どもたちと接してこられてきた心理臨床家・高垣忠一郎先生の講演録は、「不登校をなくしたい!」と思っている先生方、先生の卵のみなさんにぜひとも一読してほしいと思っています。
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