ここまで変わるのかと思った。
僕と同じグループで話す女性は、笑いながら、明るく自分の話をしている。
数ヶ月前、「どうしたらいいか……」と涙ぐみながら相談していた人とは思えない表情をしていた。
僕たちが定期的におこっなっている不登校のお話会。
そこでの会話を聞いていて、僕は人の成長ってすごいなとあらためて感心をした。
1月に『よく分かる不登校』の講演会へ参加したときには、しんどそうに、「どうしよう?」と救いを求めるような顔をして、来ていた。
将来の見通しがつかず、どうすればいいのかと、悩んでいた。
けれど、今は違う。
「いやぁ、私の関わりかたがダメだったと思うんですよー。ハッハッハ」と、笑顔で話している。
その顔からは、数ヶ月前には悲壮感を漂わせながら、悩んでいた人だとは誰も分からないほどだった。
子どもの状況が劇的に変わったということではない。
悩みもつきないだろう。
日々の中で、どうしたらいいか迷うこともたくさんあると思う。
けれど、暗闇の中でどうしようかと、もがいていた彼女はもういない。
今は、笑顔で前を向き、現実と戦っている。
ある参加者の人は、他の保護者にアドバイスをしていた。
「こういう場合は、このように考えるといいですよ。この方法、使えますよ」と。
3ヶ月ほどで、人はこんなに変わるのかぁと思い、驚くとともに、僕はとても嬉しかった。
なによりも、みんなが前を向いて、毎日子どもたちと関わっていることに誇らしさを感じた。
彼女たちはみんな、1月からスタートした『不登校連続講座(3期)』に参加していた人たちだ。
6回の講座を受け、不登校について、子どもとの関わり方について学んでいく。
その中で、どうするかを知り、実際に日々の中で実践していく。
スグにマスターして、簡単にできるようになる人たちはもちろんいない。
みんな試行錯誤しながら、どうしようと迷い、戸惑いながら取り組んでいく。
「どうやってる?」
「どうすれば、上手くなるかな?」
参加者同士で、相談もして、意見交換をおこない、切磋琢磨して成長していく。
さながら学校のゼミのように、みんなで協力しながら、出来ることを増やしていった。
週末に、6月から始まる連続講座(4期)の説明会をおこなった。
そこへ、3期に参加していた人たち4人が来てくれて、どんな変化があったのかを語ってくれた。
「子どもが修学旅行へ行くか迷っているとき、ここで学んだこんな方法がうまくいきました」とか「子どもとの声かけの方法が変わりました」など、具体的なこともたくさん話してくれた。
けれど、僕にとって印象的だったのが、みんな一様に前を向いているってこと。
「いやぁ、このあたりがうまくできないんですよー」というネガティブな話もあったけれど、決して悲観的ではなかった。
まるでモンスターに立ち向かう勇者のように力強い背中をしていた。
連続講座は、光る勇者の剣みたいだなと思う。
これまでは、武器をもたず、よく分からない”不登校”というモンスターと立ち向かっていた。
暗闇の中、いったいどこに敵がいるのかも分からない。
気がつけば、後ろから攻撃をされる。
戸惑い、苦しみ、もがく。
でも、どうすればこの強大なモンスターと戦えばいいか分からない。
人は、状況が分からず、自分でコントールできないとストレスを感じる。
暗闇の中で、どちらが前かも分からず、どこに敵が潜んでいるのかが分からない状況は恐怖でしかない。
この先、どうなってしまうのだろう……。
なにが起こるのだろうか……。
戦々恐々とする日々。
でも、光る剣を持てば、敵がどこにいるか分かる。
位置さえ把握できれば、戦うことができる。
ただ、位置が分かっていても武器を持っていないと、相手に挑むことはできない。
ひたすら逃げ惑うことしかできない。
けれど、剣を持つことで、どれだけ強大なモンスターであっても、戦うことができる。
「怖いな……」
「勝てるかな……」
不安に思ったときに力になってくれるのが、一緒に講座を受けた仲間だ。
「私は、こんな方法でやってみたよ」
「こうしたらうまくいくかも?」
仲間が背中を押してくれる。
仲間が震える肩を抱きしめてくれる。
6回の講座を通して、みんなすごく仲良くなっていく。
今でも、みんなでランチ会をしたり、一緒に山登りなんかにも行っている。
子育ては、孤独な戦いだ。
イヤになることもある。不安になることもある。
自己嫌悪におちいるときもある。
それでも、明日は、やってくる。
子どもと向き合わないといけない日々だ。
子どもが不登校になると、先の見通しがない中で、「この時間が永遠に続くのではないのか?」と思うほどの孤独を感じることがある。
そんなときに必要なのが、戦える武器と仲間だ。
僕たちがフリースクールや不登校の子と関わっていった中で、「こうしたらうまくいく」という秘伝の技を講座では伝えていく。
講座は、さながら技の伝授をする時間だ。
子どもによってタイプも違うので、たくさんの秘技を伝える。
すべて、僕たちが実践の中で会得した技ばかりだ。
そうやって技を習得していきながら、剣を磨く。
3ヶ月が経つ頃には、強大なモンスターと戦える武器に仕上がっている。
もちろん、講座が終わっても戦いは続く。
けれど、不安でどうしようか悩んでいた姿はもうそこにはない。
武器は、得た。
あとは、実践の中で試行錯誤しながら、取り組んでいくだけ。
先日、講座の参加者からメールがきた。
「うまくいかないこともあります。出来なくて落ち込むこともあります。
でも、反省はしません。出来ることを1つ1つやっていきます。出来るようにガンバってみます」と。
僕たちは、不登校で悩み、どうしたらいいか分からず苦しんでいる人たち。
親としてなんとかしたいと思っている方々に、武器を渡したい。