ゲームは、不登校の子にとって人生の教科書だ。

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半年ほど前のこと。

「買うか……」

ずっと迷っていた。
決断できなくて、「どうしようかなぁ」と思っていた。

金額は問題ではなかった。

買ったことで、やっかいなこと、メンドクサイことが確実におこるのは分かっていた。

その厄介ごとを思うと、どうしても踏ん切りがつかなかった。

けれど……。

子どもの顔が浮かび、「やるしかないか」と腹をくくり、僕はヨドバシカメラの地下へ向かった。

小学生や園児など子どもたちであふれかえるゲームコーナーの中で、購入カードを手に取り、レジに持っていった。

「もう、後には戻れないぞ……」

自分自身に向かって言うと、店員さんが「こちらでお間違いないでしょうか?」という声に「はい」と返事をした。低い声で、力強く。

Nintendo Switchと『スプラトゥーン2』を入れた袋を持った僕は、身が引き締まる気持ちだった。

「もう、言い訳はできないな……」

毎月面談をしている中学生の子がスプラトゥーンにハマっており、「田中さんもやったらいいねん」とずっと言われてきた。

「そうだねぇ」と言いながら、僕はなかなか決断できずにいた。

子どもの頃は、僕もゲーム少年だった。

中学時代は、ストリートファイターを豆がつぶれてコントローラーが血まみれになるくらいにやっていた。

けれど、仕事を始めて時間はなくなり、すっかりプレイすることはなくなった。

僕がSwitchをするかどうかで逡巡していたのには、ワケがある。

もし、始めるならば、生半可な気持ちで取り組むことは許されない。

「遊びでやるなら、やめてください」

まるで頑固な柔道家の道場みたいな本気度が、子どもにはあった。

たとえ寝る時間を捻出してでも、ゲームをしなければならない。

「そこまでできるのか……」

何度もどうしようかと悩み、ついには決断した。

僕は子どものためには、出来ることはすべてやろうと思っている。

そんな自分が、ゲームで逃げるわけにはいかない。

たとえ、10年以上のブランクがあるとしても、この課題から目を背けるわけにはいかない。

購入してからは、毎日30分をノルマにした。
仕事から終わって帰宅後。23時を過ぎた時間からゲームに取り組む。
うまくなるために攻略本を読んだ。
技術を学ぶために、人生ではじめてYoutubeのゲーム実況を見た。
勉強したことは、ノートにメモり、貪欲に学んでいった。

「そこまでする必要があるの?」と、あなたは思うかもしれない。

けれど、僕はどんなときでも子どもには大人の背中を見せたいのだ。

日頃、チャレンジすることの大切さを語っている自分が、手を抜くことは許されない。
たかだかゲームかもしれない。
でも、本気で取り組んでいる姿はきっと子どもに伝わる。
“熱狂”は、きっと周りに伝染する。
そう信じて、僕は睡眠不足の中、スプラトゥーンを特訓していった。

「なにか感じてもらえたらいいな」という淡い期待だった。
僕が努力することで、なにか大きな影響を与えられるとは思っていなかった。

でも、ちゃんと熱は伝わった。

「田中さんがやるなら、俺もガンバるわ」

そう言って、僕にスプラトゥーンを勧めてきた彼は、ゲームに没頭していく。
ライバル心のようなものが刺激できたのかもしれない。
そこからの彼は、すごかった。

圧倒的な努力だった。

上達し、ランクが上がるたびにメールがきた。

「ランクが上がりましたよ!」

文面からも、喜びと自負が伝わってくる。

「すげーな。俺もガンバるわっ」と返し、彼の成長を喜んだ。

毎月おこなっている面談のときに、聞いてみた。

「どれくらい練習しているの?」

すると、アスリートみたいな顔で「毎日、2時間は、試し打ちをしているわ」と言う。

「まぢかっっっっ!」

僕は、心底驚くとともに、尊敬の念を隠せなかった。

「すげーな……」
僕は、感嘆の声を漏らしたい。

試し打ちとは、練習のこと。
ただ、的に向かって延々と打つ練習。
勝ちも負けもなく、ただただ地味な作業だ。
野球やサッカーでたとえるならば、ただひたすらジョギングをするようなものだ。

基礎練習の重要さはもちろん分かっていたけれど、僕なんてたかだかやっても5分くらいだった。

試し打ちは地味だし、つまらない。
うまくなるかもしれないけれど、試合をしたほうが断然楽しい。

にも関わらず、彼は上達するために、延々と地味な作業を繰り返していたのだ。
しかも、毎日2時間も!

「毎日、2時間やるようにしているねん。うまくなりたいから」

なんて男前なんだ。

僕は、どうやら眠れる獅子を起こしてしまったらしい。

荒ぶる獅子の進撃は止まらなかった。

「Sランクいった」
「Xランクいった」と、どんどんとランクを上げていく。

Bランクをいったり来たりしている僕には遙か遠い存在。

すごいなぁと、思った。

「ここのサイト見てください」
「この動画勉強になりますよ」

彼は、指導教官のように、僕が上達するために必要な知識を伝えていく。

けれど、教官は厳しかった。

「見ましたか?」
「ちゃんと練習していますか?」
「そんなプレイでは、他のメンバーの迷惑になりますよ」

どうして僕は泣きそうになりながらゲームをしなきゃならないんだろうと思いながらも、教えてくれる彼に感謝した。

ある日、お母さんからメールが来た。
聞くと、彼が泣きながら帰ってきたらしい。
しかも、号泣だという。
中学生の彼になにがあったんだと思い、聞いてみると、
「ゲームで負けて、悔しかったんだそうです」

ヤバいな、と思った。

「悔しいと思えたら、キミはまだこれからも成長できる」と、なにかのマンガで読んだことがある。

たかだかゲームで泣くなよと、思うかもしれない。

でも、違う。

ゲームで泣けるくらい、彼は本気でゲームと向き合っているのだ。

そこまで真剣に、熱意を持って取り組む彼を僕は心から尊敬した。
ほんと、すごいなと思った。
ゲームは、中毒になるから危険だとか、ゲームをすれば頭が悪くなるなんて言われる。

けれど、僕はゲームは子どもの成長促進剤になると思っている。

現実世界では、うまくいく、上達するってことは少ない。

勉強は、やってもやっても分からないことが多いし、ガンバって努力する割には報われないこともたくさんある。

でも、ゲームは違う。

努力がちゃんと報われる。
本気でやれば、ゲームは応えてくれる。

ゲームは、努力する大切さを教えてくれる。
成長するうれしさを教えてくれる。

不登校で、なにもやる気がない。
自己嫌悪ばかり。

そんな子には、僕はぜひ本気でゲームをやって欲しいと思っている。
でも、「楽しいからやりなよ」と言ったところで、なかなかやらない。

だからこそ、僕は大人が背中を見せるべきだと思うのだ。

今、僕はスマブラ(『大乱闘スマッシュブラザーズ』)を練習している。

用語集を見て、言葉を覚えている。

スプラトゥーン以上に覚えることも多く、専門用語もたくさんある。

はじめYoutubeでゲーム実況を見たときには、なにを言っているのかまったく分からなかった。

英単語を覚えるような容量で、言葉を一つ一つ覚えていく。

そして、どうやって練習すればいいか、ネットや攻略本、生徒にアドバイスをもらいながら検討していった。

今は、毎日のようにスマブラを練習している。

子どもたちに「全然うまくならへんやん」とか言われながらも、「ふっふっふっ、今度ボコボコにしてやるからなぁ」と思って、コツコツと取り組んでいる。

ゲームの話しをすると饒舌になる子。
ゲームをしていると、笑顔を見せる子。

ゲームには負の側面もたしかにあるかもしれない。

でも、実際にフリースクールや面談に来ている子どもたちは、ゲームによって成長している。努力することを学んでいる。

ゲームは、子どもにとって、人生の教科書みたいなものだと思う。

共通の話題があれば仲良くなれる。
ゲームを通して、相手をおもんばかることも学べる。
不合理な経験もできる。

たくさんのことをゲームは教えてくれる。

「ゲームなんて……」と思っている保護者のかたにこそ、僕は本気でゲームに取り組んでもらいたい。

「ここまで考える必要があるのか」
「こんなに難しいことをしているのか」

ゲームをしている子への目がきっと変わるだろう。

「この子、すごいなぁ」と心から思える。

共通言語ができて、親子の会話も増える。

本気で取り組むことで、子どもも親を尊敬するようになる。

片手間では、ダメだ。
本気でやること。
時間を作ってでも、取り組む価値はきっとある。

子どもに、うまくなる方法などを教えてもらうのもいい。

ただし、厳しい教官として、ビシバシ怒られるかもしれないので、あしからず。

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田中 洋輔

田中 洋輔

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒 好きなものは、Mac/ライフハック/ラーメン プロ野球選手を目指すも、強豪校へ入り挫折し不登校に。大学に進学するも、引きこもりになる。周りの支援で復活。「自分のようにしんどい思いを子どもたちにさせたくない」と思い、2009年、学生時代にD.Liveを立ち上げる。不登校のときの話しや自尊感情(自己肯定感)に関する講演や研修をおこなう。夢は、「能力や環境に関係なく、全ての子どもが自分の未来に期待出来る社会をつくる」こと。学生時代は、お笑い芸人として漫才をしていた過去をもつ。