不登校から挽回を狙っているキミへ[逆転サヨナラホームランは、やめたほうがいいよ]
出遅れた気がしていた。
不登校のとき、引きこもりのとき。僕はなにもしていなかった。他の子に比べて後れている。
「アイツはダメなやつだ」
そんな声を遠くから聞こえてきていた。
「自分はダメじゃない」
必死に思い込もうとした。
自分を信じたかった。
自分はダメじゃないし、きっと大きな可能性があるんだ。
昔に母親から「あなたは大器晩成タイプなのよ」という言葉を言い訳の材料にして、必死で不安を押し殺していた。
やる気が出ず、なにもしなかった。
ただダラダラとゲームをして、ラジオを聞いた。
明け方に寝て、いったい今が何曜日で何時なのかも分からなかった。
四畳半の木造アパートで僕は引きこもり生活を過ごしていた。
「楽しい」と思う時間はなく、ただ危機感だけが募っている。
「変わらなくちゃ」
「なんとかしなくちゃ」
思っても体がついてこない。
なにをしたらいいのかが分からなかった。
暗闇の中、ただ息をしているだけで、時間は一向に進まなかった。
今になって思う。
僕はあのとき、逆転サヨナラ満塁ホームランを狙っていたんだ。
周りから遅れている焦り。
なにも出来ていない現状。
「自分は、やればできる」と思い込む気持ち。
「いつか見ていろ」
誰に言うわけでもなく、心の中で誓いのように思っていた。
僕は大きな結果を望みすぎて、遅れを取り戻そうと気負っていた。
4打席とも三振をした選手のように、名誉挽回を求めて、打席に立っていた。
すると、どうなったか?
良い球が来るまで、ボールを見逃すのだ。
「打てよ!」とファンが思うのに、全く微動だにしない。
そして、最終的に追い込まれ、ボール球、振ってはいけない球に手を出して三振をしてしまうのだ。
「いつかは、なにかを成し遂げてやる!」
その気持ちが大きすぎて、目の前のことがすべて無駄で些細なことに思えていた。
学校へ行くことも同じ。
「すごい俺にとって学校へ行くことは大事じゃない」なんて思っていた。
目の前に転がるボールを必死で追わないヤツが試合で勝てないように、なにもしないで結果など出るわけがない。
でも、当時の僕はそれが分かっていなかった。
うまくいかないことは環境や人のせいにしていた。
「あいつが悪い」
「大人が分かってくれないからダメなんだ」
「大学が悪い」
なにかのせいにすることで、うまくいかないことは自分の責任だと思わなくてよかった。
ただ単に僕は、現実逃避をしていて、責任転嫁をしていただけなんだ。
そして、打席に立って、来るハズもない絶好球を待ち続けていた。
あのとき、僕は分かっていなかった。
絶好球にするには、自分からスイングしにいく必要があることを。自ら動くことを。小さなことに対して懸命に取り組む大切さを。
大きな結果を望むのは決して悪いことではない。
でも、ずっとホームランばかりを狙って見逃し三振をしていると、プロ野球の世界だったら結果を出す前にクビになる。
目の前にあることに対して全力を出すのは決して無駄じゃない。
おっさんの戯言で、「いや、無駄なことはあまりやりたくないですよ」とキミは言うかも知れない。
うん。きっと当時の自分もそう言っていただろう。
しかし、今になってみて思うのだ。
栄光や大きな結果を出すためには、無駄の積み重ねの中からしか生み出せないということに。
エジソンですら何百回と失敗した先に大きな発見があったのだ。
ならば、僕たちもエジソン以上にたくさんの失敗をしながら、泥臭くヒットを狙うべきじゃないのだろうか?
どんどんスイングしていくと、いつかはホームランも打てるようになるだろう。
ホームランが打てるようになれば、少しずつコツも分かって、もっと打てるようになる。
そうやって好循環がうまれてくる。
些細なことでもいい。
将来に繋がらないようなことでもいい。
とにかく、やってみよう。
始めてみれば、新しいことが待っている。
なにかの出会いに繋がることがある。
もちろん、無駄なこともあるだろう。
でも、それでもいいじゃないか。
たとえば、キミがドラマの主人公で、なにもハプニングがおこらないままストーリーが終わってしまったら視聴者はなにも楽しくない。
失敗や挫折、辛いことがあるからこそ、楽しいことや幸せ、成功が輝くのだ。
やってみよう。
どんな小さなことでもいい。
「え? それって意味があるの?」
言いたい人には言わせておけばいい。
僕は、かつて東京都初の民間人校長である藤原和博さんに「人生は打数の関係のないゴルフなんだ。とにかく、打ちまくることが大切だよ。バンカーに入ろうが池ポチャになろうが関係ない。人生は何度も打ち直せるんだ。そして、結果的にホールにボールを入れたらいい。」とアドバイスをいただいた。
この言葉をそのままキミに送ろう。
どんどん打とう。
打席に入り、「どこに打とうか?」「バンカーに入ったらどうしよう……」と考えすぎてなにも出来なかった僕のようには、なってはいけない。
好きや興味、関心で動こう。
見たい映画があれば見ればいい。
好きなアイドルがいれば追っかければいい。
未来は、結果論だ。
どうなるかなんて、分からない。
大事なのは、今であって、昨日や明日ではない。
今、ここがなにより大事なんだ。
昨日を後悔する必要なんてないし、未来を憂う必要もない。
今を充実させよう。
誰のせいにするでもなく、自分の人生を自分の足で歩いていくんだ。
大丈夫。
失敗したら、またやり直せばいい。
人生、死ぬこと以外はかすり傷なんだから。