学校で立てる計画がうまくいかない理由〈連載小説⑥〉

 

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思春期の子が自信を失う理由。〈連載小説②〉

 

母親失格。〈連載小説③〉

 

なぜ、子どもは勉強のやる気がないのか? 〈連載小説④〉

 

「やればできる」と思えるためには?〈連載小説⑤〉

 

「今日は、僕がやっていることについてご紹介しながら、話しを進めていきましょう」

「お願いします」

「夜に、中高生向けの教室を運営しています」

「はい。マスターからお聞きしました。”自信を取り戻す教室”だとか?」

「そうですね。子どもたちが自信を持って、自分がやりたいこと向かってチャレンジできるようするところです。TRY部って言います」

「そうなのですねぇ」

「TRY部で、とても大切にしていることが、計画と振り返りです。その話しを今日はしましょう」

「はい!」

「計画と振り返りってどんなイメージですか?」

「う〜ん、めんどくさそうです。正直、あまり好きじゃないです」

「僕もですよ」

「えっ、そうなんですか!」

「学校とかでもあるじゃないですか。夏休みの宿題計画とか。もうすごく苦手でした」

「私もです。計画通りに進んだことがなくって、計画通りにちゃんとやっている子をみるとすごいなぁと思っていました」

「学校でおこなう計画って、だいたいダメなんですよ」

「ダメ?」

「はい。学校で具体的に計画の立て方って教わったことあります? ないですよね。夏休み前とかテスト前に計画表を配られて、計画を立てなさいと言われても、できないですよ」

「たしかに。どうしたらいいか分からず、なんとなくでやっていました」

「正直なところね、計画なんてうまくいかないで当たり前で、先のことなんて分からないんですよ」

「そうですよね。私もいつも分からなかったです。でも、それじゃあ計画を立てることって意味がないんですか?」

「いえ、意味はあるのです。計画を立てることには、大きな意味があります。でも、たくさんの人は大きな勘違いをしている」

「勘違いですか?」

「計画ってね、うまくいかなくていいんです」

「えっ? いいんですか? ちゃんと、計画通りに進めることが大切なんだと思っていましたけど……」

「計画通りに進められるならいいんですよ。でも、ほんとどの子は、計画通りにはいかない。すると、どうなりますか?」

「イヤになってしまう」

「そのとおりです。マジメな子ほど、計画通りにちゃんとやろうとします。でも、うまくいかない。すると、自分を責めるか、計画なんて立てても意味がないと思ってしまうかのどちらかです」

「私は、自分を責めていました。自分は、計画性がなく、計画的にできないダメな子だって」

「計画で大事なのは、計画を立てることではなく、振り返りなんですよ」

「反省ですか?」

「違います。振り返りって聞くと、反省を思い浮かべますよね。でも、反省って楽しいですか?」

「いえ、楽しくないです」

「学校やご家庭でやってしまいがちなのは、振り返りと称した反省です。”次、どうするの?” “もっと、勉強ガンバる” みたいなやつです」

「ああ、やったことあります……」

「効果あったこと、ありますか?」

「いえ、全く……」

「そうですよね。振り返りで反省しても、あまり効果がないんですよ。だって、結局なにが悪かったか、次はどうすればいいのかが全く分かっていないから」

「じゃあ、どうすればいいんでしょうか?」

「ちゃんと客観的に判断することです。振り返りって、ダメなことばかりを考えるように思われていますが、大事なのは、うまくいったことです」

「うまくいったこと?」

「友達と一緒に勉強してみたら、いつもよりはかどった、みたいな感じのやつです」

「うまくいったことって、再現性があるんです」

「さいげんせい?」

「はい。また出来る可能性が高いのです。人がうまくいった方法でも、自分ができないこともあります。でも、過去の自分ができたことは、きっと未来でもできるのです」

「うまくいったことを再現できるのですね」

「そうです。振り返りは、そうやってうまくいったことを拾っていくのです。そして、うまくいかなかったことは、どうしたらうまくいくかの仮説を立てます。そして、それらを踏まえて、次の計画を立てていくのです」

「そうか。次へ活かしていくのですね」

「そうなのです。一度計画を立てただけで、うまくいくハズがないのです。でも、何度も計画を立てていくと、精度が上がっていきます。自分がどうすればうまくいくか、どんなときうまくいかないかが分かっているからです」
「ああ、だから計画はうまくいかなくてもいいんですね」

「そうなんです。計画って仮説なんですよ。きっとこうすればうまくいくだろうという。だから、うまくいっても、いかなくても、次に繋がるので、計画を立てることに意味があるのです」

「でも、計画通りにいかないと、どうしてもイヤになってしまいます」

「分かります。僕もそうですよ。ちゃんとしたいなぁという気持ちがはたらいて、計画を立てるのが苦痛になってしまうのです。そんなときは、できるだけ現実的な計画を立てるのです」

「現実的ですか?」

「再現性ができるだけ高い計画を立てるのです」

「うまくいく方法だけを書く、と?」

「そうですね。でも、今まであまり勉強していなくて、これからガンバりたい子であれば、すべてうまくいった方法を書くことは難しいでしょう。その場合は、できるだけ出来そうなことを書くのです」

「無理のない目標を立てるのですね」
「特に、はじめの頃は、うまくいく経験がたくさんあったほうが、計画を立てるのが楽しくなります。うまくいかないと、イヤになってしまいますからね」

「学習性無力感ですねっ!」

「素晴らしいです。では、智子さんに質問です。計画や振り返りをすることの意味ってなんでしょう?」

「う〜ん、計画力が身につくといったら、なんだか単純すぎてしっくりこないなぁ。うまくいく方法が見つかる、でしょうか?」

「さすがです! その通りです。シンプルに言ってしまえば、自分のことを知ることができるのです。うまくいく方法やうまくいかない方法を知ることができるのです。自分を知ることができたらどうなりますか?」

「より実現性の高い計画を立てることができる?」

「そうです。うまくいく確率が高くなるのです。何度も何度も計画や振り返りをして、学校行く前に勉強をすると、はかどることが分かった。すると、それを計画に組み込めば、きっとうまくいきますよね」

「再現性が高いですね」

「やる気とか気合いとか、意味がないのです。”もっとガンバる”なんて言わせたところで、なにも変わらないのです。大事なのは、なにができて、なにができないかをちゃんと知ることです」

「はい。なにも変わらなかったです……」

「計画と振り返りを通して、自分がうまく方法を見つけていくのです。子どもは、ゼロか百で考えるところがあります。結果がでないと、全てを否定しまう。でも、うまくいかない中にも、きっと良かったこと、うまくいったことがあるのです。それを見つけるために、計画を立てていくのです」

「結果がでなくても、必要以上に落ち込まないんですね」

「はい。客観的に振り返ることで、たとえうまくいかなかったとしても、”次、ガンバろう”と思えます。そして、うまくいったことを見つけることで、”出来た”という自信に繋がるのです」

「だから、TRY部では、計画を立てているのですね」

「そうなのです」

「大人でも、この考え方、使えそうですね」

「使えますよ。振り返りをするときは、どうして出来なかったのかをしっかり分析してみてください。そして、どうすれば出来るようになるか仮説を立てて、次に活かしてください。少しずつ出来るようになっていくこと、成長するのが楽しくなってきますよ」

「やってみます!」

 

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この記事を書いた人

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒

中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。
しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。
野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。
浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。
友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。
フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。
京都新聞にして子育てコラムを連載中。
詳しいプロフィールはコチラから

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