「おでんうどん」と僕を呼ぶ生徒が、卓球に誘ってくれたあの日のこと【昼TRY部の徒然日記】

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「あ、『おでんうどん』だ」

僕は昼TRY部のとある生徒にこんな奇特なあだ名で呼ばれている。振り返れば高校でも大学でもそれぞれ妙なあだ名で呼ばれていたので、別に気にはしていない。でも「おでんうどん」なんてあだ名で呼ぶのは世界見渡してもこの生徒ぐらいのものだ。もう1年くらいこう呼ぶのですっかり慣れた。

もちろん、ちゃんとした由来がある。

ある日、スタッフや生徒を交えて「おでん」の話になった。そのとき、「おでんはごはんのおかずにはならない」という意見で一致したのが、僕とその生徒、2人だけだった。思わず固い握手を交わしたのだが、直後それは反故にされる。それは僕がこんなことを言ったからだった。

「でも、おでんにうどん入れて食べますけどね、僕」

これに、場にいた全員が「ありえない」と叫んだ。ごはんのおかずにならないことで一致した生徒ですら異を唱える。そのうち、「あ、おでんにうどん入れて食べる人」と顔を合わせるたびにその生徒が言うようになり、いつしかそれが短縮されて「おでんうどん」になった、というわけだ。

そんな彼、昼TRY部ではよくタブレットとにらめっこしている。ゲームをしているのだ。そのうち気に食わないことが起こったり負けたりすると、よく舌打ちしたり機嫌を損ねる。普段からストレスを抱えやすく、時折スタッフに悪態をつくこともある。

この悪態をつくところだけを見れば、彼はスタッフを嫌っているのかもしれないと思われるだろう。でも、それは違うと確信した出来事があった。

それは先日昼TRY部遠足で行ったラウンドワンのスポッチャでのこと。

「ねえねえおでんうどん、卓球で勝負しない?」

複数の生徒とスタッフを交えてフットサルを終え、肩で息をしていた僕は生徒にそう声をかけられた。僕もフリースクールにいたころ週に1回は卓球で遊んでいたので腕に覚えがある。断る理由なんてなかった。それに、彼からこうして何かに誘ってくれたのも、すごく嬉しかった。

さっそく、無人の卓球ゲージに入って勝負する。

「あー、ネットはずるいってー!」
「いまのはうまくいった!」
「えー、それ入るの!?」

お互い、スマッシュを打ちたがるのでラリーはそんなに続かない。でもひとつだけ印象的だったのは、その生徒の表情が、タブレットと対峙しているときのそれに比べて、明らかに楽しそうだったこと。

気がついたら横のコートに他の生徒とスタッフがダブルス対決をしていた。しかし目の前の彼はそんなことどうでもいいという感じで、ひたすらピンポン球を打ち返す。横で「よっしゃー!」「デュースやで!」という声が聞こえてきても、お構いなしだった。

よっぽど楽しいんだろうなあ、と思いながら、僕も必死になってピンポン球を打ち返す。

どれくらいやっただろうか。別に勝敗を決めることなく、ポイントの記録すら取らずにお互い無心で目の前のピンポン玉を追った。ようやく「疲れたー」と、生徒がラケットを置く。あとから始まった横のコートのダブルス対決もとっくに終わっていた。

ゲージを出るなり、彼はこう言った。

「ちょっと喉乾いたから財布取ってくるんだけど、その間にそこの自販機のお茶の値段見といてくれません?」

はじめて彼が「くれません?」と僕にていねいな言葉遣いをしてくれた気がした。

そのあと、僕と彼は時間いっぱいまでいろんなアトラクションを回った。いっしょに太鼓の達人をやったり、ほかの生徒も交えてエアホッケーやミニボウリングもやった。「じゃあ、最後はバッティングで締めますか」と、ふたりで別々のゲージに入ってカーン、カーン、とボールを打つ。

すごく楽しそうだった。もしかしたらこんなに楽しそうな彼を見たのはあの日が初めてかもしれない。

「おでんうどん、キャップ投げやろ」

最近、僕と彼は昼TRY部の最後の1時間、ひたすらペットボトルのキャップを投げて遊んでいる。いや、投げて遊んでいるのは彼のほうだ。

僕はパイプ椅子で作った簡易のキャッチャーの前に立ち、バッターとして彼が投げるキャップを見送っている。「良いコースだねぇ」「今すごい曲がらんかった!?」と、その都度投球に対してバッター目線で感想を言う役割だ。僕は僕で、「イチロー!」とか適当な野球選手のフォームを真似して遊んでいる。

時々頭をかすめることがあってやや怖いけど、こうして彼とコミュニケーションを取れることが楽しい。彼自身も、きっと鬱々とゲームをやるより、こうして少しでも身体を動かすほうが楽しいのだろう。タブレット片手のときとは違う顔を見せてくれるし、時々トランプの合間にキャップを投げている。

だからこそ、その思いに応えてあげたいと僕は「見えないバット」で打席に立つ。

きっと、スタッフに対して悪態をつくことがあるのも、僕のことを「おでんうどん」と呼ぶのも、彼なりの「距離感を測る方法」なのだろう。事実、最近ちょっと僕のことを「おでんうどん」ではなく、名前で呼んでくれることも増えてきたし、ほかの生徒の名前が彼の口から出ることも多くなった。

子どもたちは、たとえゆっくりでも日々着実に成長している。ある日突然ぐんと変わるほうが稀なのだ。その小さな成長にふと気づけることが喜びでもあり、それは同時に関わる大人の役目でもある。

時の流れは早いもので、明日は年内最後の昼TRY部。週に2度、あんなに楽しく遊んでいた彼らも、3週間近い「冬休み」の期間に入る。この場所を楽しみにしてくれている生徒にとっては長く感じるかもしれない。でも、年末年始のお休みをどんなふうに過ごしたか報告してくれる生徒が楽しみな僕がいる。

来年の今頃、彼らはどんな成長を見せてくれるのだろうか。きっと周りの大人が度肝を抜くような姿を見せてくれるんだろうな、と想像しながら、2017年が暮れてゆく。

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山本 駿

山本 駿

NPO法人D.Live スタッフ / 高校非常勤教員(社会科) 京都出身。中学3年間不登校。岐阜県内の大学を卒業後、不登校ボランティアを経て2014年よりD.Liveに参画。主にTRY部や不登校講演事業を担当しながら、今を生きる子どもたちの先生でも友達でもない「ナナメの関係」になることを目指しています。