「なぜ勉強しないといけないのか?」と聞いた時の子どもの心理と答えかた
ぼくが小学校の先生をしていた時のことです。
ある日の休み時間に3年生の子どもにやってきて言いました。
「なぁ、先生なんで勉強しなあかん?」
きました。
ついにこの瞬間がやってきました。
なぜ勉強しないといけないのか。
本質を問うまっすぐな質問です。
逃げたりごまかしたりできない質問です。
答えによっては子どもの勉強する気持ちを削いでしまうんじゃないかと不安にさせる質問です。
もしかして、自分は試されているんじゃないか。
そう思ったりもしました。
一呼吸おいて、ぼくはこう答えました。
「良い質問ですね。勉強は自分を広げるためにするんですよ。」
下の図を書きながら、説明を続けます。
「これが今の自分がわかる範囲のこととします。勉強することはいつも自分が知らないことです。だから勉強するまでは何のことか分かりません。円の外にあることばかりです。でも、勉強すればわかるようになるから自分がひろがっていきますよね。こうやって分からないことが分かって自分を広げるためにするんですよ。」
「ふーーん。」と言いながら、質問した子どもはどこかへ行ってしまいました。
もっと上手くいえたらよかったのに!!
しかしもう取り返しはつきません。
せめて、今ならどう答えるかの考え方をここに書きとめ、同じように質問された人の材料になればというのがこの記事の趣旨です。ということで、ここからが本題です。
「なぁ、なんで勉強しなあかん?」
こう聞かれたら、みなさんなら何と答えますか。
一昔前は「良い大学にいって良い会社に入るため」という答えがメジャーな答え方でした。このルートが幸せだと信じて疑わない人が多かったので、ある種の共通理解として子育て世代に普及していました。
しかし、おそらく今は「良い大学にいって良い会社に入るため」だと答える人は少ないんじゃないかと思います。答えが良い悪いの話じゃありません。単純な話で、勉強して良い大学にいって良い会社に入ることが幸せなことだと考える人が少なくなったからです。
共通理解としての答えがなくなった以上、自分なりに勉強のすることの意味や価値を見出さないといけなくなった。ぼくが、子どもに質問された時に試されていると感じたのもこれが理由です。
今の子どもの目線からすると、学校で習うことを勉強しなくても将来生きていけそうに見えます。
ユーチューバーをはじめ、勉強したこととは関係なさそうな仕事で食べていける人が増えたからです。
そうなると、「もしかして勉強って意味ないんじゃないの?」と子どもは思います。
だから聞くんです。どうして勉強をしないといけないのか。
サインやコサインなんていつ使うんだ。
それよりは上手い動画の撮り方を勉強したほうがいいんじゃないか。
こんな風に思っているかもしれない子どもに勉強の意味を伝えるとなると、なかなか難しいように感じます。
ですが、もう一歩深く子どもの気持ちを考えてみたいのです。
勉強の理由を問うようになったきっかけは一体何なんでしょう。
もっといえば、勉強する意味が感じられなくなった出来事は一体何なんでしょう。
もしかしたら、テストの点数を友達と競って負けたのかもしれません。
納得しないまま無理やり勉強させられる環境に嫌気がさしたのかもしれません。
授業についていけないのに学校に行くことに耐えられなくなったのかもしれません。
勉強する意味が分からなくなったきっかけが、必ずあります。
どうして勉強するのか聞かれた時に自分なりに答えることは必要です。ここをごまかしたり流したりすると、勉強しなくていいんだと勝手に思って勉強しなくなります。ですが、一歩踏み込んで子どもがそう思ったきっかけに目を向けて話を聞いてみることもそれ以上に大事です。
テストの点数で負けて悔しかったなら、それまでどんな努力をしたか認めてあげることができます。
無理やり勉強することが嫌なら、一緒にどうしていくか考えることができます。
授業についていけないことがわかったら、塾や家庭教師を一緒にさがすことができます。
勉強する意味がわからなくなったきっかけを知れば、それに合わせた答え方ができます。
これが非常に大事です。
自分がそう思うようになったのは、「子どもの自信白書」を作成する時にご協力いただいた梅花女子大学の福井先生が、このようにおっしゃっていたからです。
例えば「友達と何気ない話をすることも人生の中では楽しみの一つだよ」と伝えても、「いや、そんなこと何にもならへん」という学生が増えてきています。行為そのものに目的や意味、価値を感じられると自己評価も非常に肯定的な方向になる傾向にあるのですが、それがないと自分に対する評価も厳しくなる。今の学生は何が意味あるもので価値あるものか、結構わからなかったりします。
(中略)
そうやって「意味ない、意味ない、意味ない…」と思い続けることが自分を守る手段になるのですが、大きくなると「意味ない」にがんじがらめにされて、「全部意味がないならもういいや」となってしまう。
(子どもの自信白書’15より)
「意味ない」が増えて自己評価が下がらないようにするために、子どもが勉強する理由について聞いたきっかけに目を向けること。そして自分なりに勉強する理由を答えることが望ましい対応ではないでしょうか。
だから、もう一度あの時の小学3年生に話ができるとしたら、聞こうと思ったきっかけを知ることをぼくはまず行います。そして、勉強はジグソーパズルと同じだよと言います。たとえを出すことで、もう少し意味が伝わりやすいようになるんじゃないのかなぁ。。
勉強が嫌いなお子さんがいる保護者様へお知らせ
「ウチの子どもはなぜ勉強しないのか ーやる気を引き出す関わりとはー」
というテーマで、講座を行います。
勉強する理由を聞かれた時にどうするのか。家で勉強してもらうために何というか。
『あなたの子どもはなぜ勉強しないのか-そのアドバイスが子どもをダメにする-』という本から探っていきます。
10月14日(土)14:00 – 16:30
小5〜高3の保護者様5名限定の講座となっております。