保護者がジャムおじさんになれば、不登校の子は元気になれる。

「学校に行けない子に対して、どんな関わりかたをすればいいでしょうか?」

保護者のかたが、僕のほうを見て、不安そうに質問する。

この日は、『おとなTRY部』のイベント。
二学期になると、学校へ行けない子が増えてくることもあり、”不登校”というテーマでおこなった。
 

不登校の概要について説明したあと、「なにか聞きたいことはありますか?」と聞くと、ひとりの保護者さんが、おもむろに話しはじめた。


「家では、元気そうにしているのです。そういう姿を見ると、つい学校へ行ったらと言ってしまいます。でも、そう言うと、子どもが黙ってしまうのですよね。いったい、どんな関わり方をすればいいのでしょうか? 学校のことは、あまり言わないほうがいいいのですか?」

学校へ行けない子との関わりかたで頭を悩ます保護者さんは、少なくない。

ガラス細工に触れるかのように、おそるおそる関わる。

なにを言えばいいのか?
どんな声かけをしたらいいのか?

正解や適切な関わり方が難しく、どうしたらいいか困ってしまう。
  
 

僕は、じっと考えて、質問をくれた保護者さんに聞いてみた。
「お子さんは、”お母さんは僕のことをわかってくれる”、と思っていますか?」

保護者のかたは、少し戸惑い、「どうでしょうか……? ちょっと、わかりません……」と、おっしゃった。

なぜ、そんなことを聞くのだろう?と、彼女は思ったかもしれない。

どういう関わり方が良いのか、正解だけを教えてくれたらいいのに……と思ったかもしれない。
 

でも、僕はどうしても聞いておきたかった。
その言葉に、僕が言いたいことが凝縮されていたから。
 

 

僕は、不登校の保護者さんが目指す姿は、アンパンマンに出てくるジャムおじさんだと思っている。

関わり方やあるべき姿は、ジャムおじさんが教えてくれる。

学校へ行けない子どもを見ている保護者さんは、我が子にとにかく外へ出て欲しいと思っている。

「学校へ行かなくてもいいから、外へ出るようにして欲しいのです。
家の中で引きこもっていると心配で……」と、おっしゃる。

不安なのは、もっともだ。

「もしかしたら、このままずっと出られないかも……」と、心配でたまらなくなるだろう。

しかし、僕は「ちょっと待ってください」とストップをかける。

「まずは、家がすごく楽しいという状況を作ってあげてください」と、伝えている。

家から出る瞬間は、必ずやってくる。
サナギが脱皮して蝶になるときがくるように。

「早く脱皮して、蝶になれ!」というのは無理な相談で、それは子どもも同じ。

順序やタイミングがあり、慌てると裏目に出てしまうこともある。

そこで、参考になるのが、ジャムおじさんなのだ。
 
 

ジャムおじさんは、いつだってアンパンマンの顔をつくってくれる。
弱ったときは、バタコさんと共にやってきて、新しい顔を届けてくれる。

ばいきんまんにやられても、問題ない。

いつだって、アンパンマンにはジャムおじさんがついている。

もし、ジャムおじさんがいなかったらどうだろう?
きっと、アンパンマンは、あそこまで積極的に、ばいきんまんと戦えないだろう。

「ちょっと今回は負けそうだし、食パンマンを呼んでこよう」と、思うはずだ。

でも、たとえ負けるとわかっていても、ばいきんまんに戦いを挑むのは、ジャムおじさんがいてくれるという安心感に他ならない。

いつだってジャムおじさんがいてくれるから、アンパンマンはなにも気にせず、ヒーローでいることができるのだ。

学校へ行けない子、外へ出られない子も同じだと僕は思っている。

安心感が持てる場所、人がいれば、きっと子どもは外へ出られる。

不登校は、アンパンマンで言うならば、顔が濡れた状態だ。

「顔が濡れて、ちからが出ない……」と言って、ふらふらしながら、帰ってくる。

そんな状態の子に向かい、「早くばいきんまんを倒してきなさい」というのは、あまりにも酷だ。

「いや、もう乾いたやろ? そろそろいけると思うけど、どう?」と言われたら、アンパンマンも「うぅ……」となってしまう。

さすがにこれは言い過ぎかも知れないけれど、不登校の子にとって、”外へ出て欲しい”というプレッシャーは、このような状態に等しい。

「どれだけ傷ついて帰ってきても受けいれてもらえる」と信じられないと、思い切って飛び出すことはできない。

アンパンマンのように、「ジャムおじさんがいてくれる」と思えたら、果敢に飛び出すことができる。

だからこそ、”親は、自分のことをわかってくれる”と、子どもが思っていなくては、ダメなのだ。

そう信じられないと、なかなか一歩を踏み出すことはできない。

不安に思うのもわかる。
早く外へ出て欲しいと焦る気持ちもわかる。

けど、急いではいけない。
どんな子でも、いつかは、美しい蝶になれる。

だからこそ、まずはじっくり話しを聞いてあげて欲しい。

全てわかってあげることなんて無理だろう。
でも、「分かろうとしてくれる」という姿勢は、子どもに伝わる。

ヘタでもいい。
少し焦げててもいい。

家で、新しい顔を焼いて待っていてくれる人がいると思えるだけで、子どもは強くなれる。

ガンバろうと思うことができる。

どんなときでも、親が味方になってくれる。
家に自分の居場所がある。

そう思えたら、きっと飛び立てる。

今はまだサナギで、空を舞う姿なんて想像できないかもしれない

けれど、いつの日か、美しい羽を広げ、遠くへ飛び立っていく日がきっとくる。

ずっと家の中で閉じこもっていたのが、ウソだったかのように……

 
 

【今後のイベント案内】

9/23(土)滋賀県大津市自分の素直な気持ちが話せる 「第3回 不登校のおはなし会in滋賀」  

9/24(日)in滋賀県大津【限定5名】隠れた名著『不登校 母親にできること』に学ぶ子どもとの関わりかた 

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この記事を書いた人

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒

中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。
しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。
野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。
浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。
友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。
フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。
京都新聞にして子育てコラムを連載中。
詳しいプロフィールはコチラから

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