生徒を砂場で遊ばせていると、勝手に成長していくんだとわかった。

思わず、笑ってしまった。
「え? ちょっと、まぢかよ……」

真剣勝負だったはず。なのに、あっさりと負けた。
僕は、小学5年生(女子)にいとも簡単に負けてしまった。

この日は、教室(TRY部)で授業をおこなっていた。

彼女は、創造性が豊かで、ゼロからなにかをつくるのが好きだった。
LEGOをさせると、数時間休憩も取らずに取り組むような子。
物語を書くのが好きで、家でストーリーを考えることもあるという。

僕は、彼女の得意なことをもっと伸ばしてあげたい。
好きなことにもっともっと没頭して欲しいと思い、小説を書く授業をおこなうことにした。

本に掲載されているワークシートを使い、ストーリーの考え方を簡単に説明。

彼女は、シートを元にして物語や主人公、敵などを考えていく。

取りかかるとき、「いや、そんなすぐに物語とか思いつかへんわー」と言う。

なのに、1分後。

「あっ!」
「そうやっ!」
「うん」

閃いたのも束の間、ワークシートに設定をどんどん書き出した。

「これは、こうやな」
「うん、こうこう」
「あー、こうしよう」

正直、あっけにとられた。

僕自身、ライティング講座にも通い、文章を毎日のように書いている。創造力も、決して低くはない。

でも、「勝てないかもしれない」と思った。

圧倒的だった。

ワークシートの取り組み方を説明して、僕も彼女と一緒にスタートした。

僕がうんうん唸っている横で、彼女はどんどんシートを埋めていく。

うそでしょ?

5年生に負けるわけには、いかない。
僕の負けられない戦いは、ここにある。

考える。考える。考える。

しかし、煮詰まってくる。
どうしても、主人公が最後どうなるのか結末が思いつかなかった。

頭を抱えている僕に、彼女は言った。

「どんなん考えてるん?」

僕は、主人公が高校生の男の子でいじめられていること。
彼が江戸時代へタイムスリップし、元の時代に帰ってくる物語だと伝えた。

「で? なにで悩んでるん?」

「いやぁ、最後がわからへんねん。結末がイマイチ思いつかへん」

すると、彼女は間髪入れずに「じゃあさぁ」と言って話し出す。

待ってくれ。
いや、待ってくれ。

僕は心の中で叫んだ。

相手は、20歳も年下なんだ。
まさか、アドバイスをもらうのか?

っていうか、どうしてノータイムでアイデアを言おうとしている?

考える時間は、いらないとでも言うのか?
僕はこんなに悩んでいるんだぞ?

かれこれ10分くらいは、「うんうん」と唸っている。

あれでもない、これでもないと言っているのに、プロット(物語の筋)を聞いただけで、瞬時にアイデアが浮かぶのか?

モヤモヤ思っている僕の心の声をかき消すように、彼女は続ける。

「主人公が元の時代に戻ったとき、歴史に主人公の名前が残るようにしたらええねん。
それで、主人公は自信を持てて、いじめていた子に見返すって感じにしたら?」

ぐぅの音も出なかった。

KOだ。ノックアウト。
もし、僕がボクサーなら、リングの上に膝から崩れ落ちてしまっていただろう。
パンチは僕のアゴにクリーンヒットした。

完敗だ。
勝てない……

すごすぎて、思わず笑ってしまった。

「え? ちょっと、まぢかよ……」

ちょっと聞いただけで、そんなことがスグ思いつくのか?

“子どもの発想だな”と、タカをくくれるようなものじゃない。
僕の頭には、決してなかった発想だった。

しかも、物語としてすごくキレイな感じになる。

モーツァルトを見たとき、人は僕と同じように感じたのだろうか。
もしかして、これが“天才”と言われる人なのかもしれない。

僕は驚きを隠せなかった。

教室(TRY部)をしていて、子どもたちには驚かされることばかりだ。

子どもは、大人が思うよりも、ずっと早く成長する。
気がつかない才能や能力に溢れている。

今回のことも同じ。

びっくりした。

でも、僕は子どもたちに驚かされるのが嬉しくてたまらない。
成長の瞬間、潜在能力が発揮された一部始終が見られるのは、教育に関わるものとして、最高のご褒美だ。

TRY部は、カッチリとしたカリキュラムを敢えてつくっていない。
それは、子どもたちを成長させたいから。

僕が幼稚園に通っている頃、毎日のように砂遊びをしていた。
砂場は、僕にとって最高の遊び場だった。

どれだけ上手に城がつくれるのか?
穴をあけても崩れないようにどうするのか?

誰にもアドバイスを求めず、自分で考え、試行錯誤をしていった。
25年以上も前のことだけれど、夢中で砂遊びをしていた記憶は、今でも鮮明に残っている。

僕は、あの砂場で、ゼロからなにかを作る楽しさを知った。
試行錯誤することを学んだ。

TRY部は、子どもたちにとって砂場のような場所にしたいと思っている。

カリキュラムによって子どもたちを縛るのではなく、子どもたちの興味や特性に合わせて授業をおこなう。

そうすることで、好きなことや得意なことをどんどん伸ばしてあげたいのだ。
ハマる体験をして欲しい。

授業の時間が終わっても、彼女は迎えに来たお母さんを待たせたままずっと物語を考えていた。

学校や家庭だけでは、自分が好きなことや得意なことを見つける機会は多くない。

だからこそ、ここの教室では、子どもたちが「ハマる」経験をたくさんして欲しい。
熱中できるものを見つけて欲しいと思っている。

泥だらけになりながら、砂遊びが楽しくて仕方がなかった僕のように。

砂場で僕は、大人たちに教えられることもなく、勝手に成長することができた。

だから、僕は信じている。
生徒を砂場で遊ばせていると、勝手に成長してく。

僕たちはただ、子どもたちが夢中になれる砂場を作るだけでいい。

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この記事を書いた人

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒

中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。
しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。
野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。
浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。
友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。
フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。
京都新聞にして子育てコラムを連載中。
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