【02.25 講演レポ】吸血鬼を増やすため、僕たちは講演をおこなう。

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1000年以上前から、世界各地で彼らは目撃された。

出没するのは、決まって夜中。日が昇っているときには、決して姿を見せない。
血を吸って生きる彼らは、吸血鬼と呼ばれた。
ヴァンパイアやドラキュラとも言われ、今でもどこかで姿を潜めていると言われている。
 

21世紀はじめ、僕たちは、吸血鬼としての活動をこっそりと始めた。
牙(きば)を使って、一般人を噛む。すると、噛まれた人々は吸血鬼になるのだ。

「もっと吸血鬼を増やさなければ……」

使命感を持ち、いつでも噛めるように、今日も牙を研いでいる。

******************
 

草津市民センターで、僕は参加者が来るのを待っていた。
 

講演の依頼があったのは、暮れも押し迫るとき。
「新聞を見て、連絡させていただいたのです」と、担当者のかたから電話があった。

「子どもの自信とか意欲、自尊感情について教えて欲しいのです」

後日、センターにて打ち合わせ。
「よし! テーマは、これでいきましょう」

講演のタイトルは、『子どもの自信を育むには? -ほめる以外の関わりかた-』になった。
 

講演30分前。
打ち合わせを終え、来場されるかたを待っていた。

1人、また1人と、人が入ってくる。
気がつけば、会場に並べられたイスは、ほとんどが人で埋まっていた。

参加されているかたは、保護者から年配のかたまで。
男女の割合は、半々といったところか。

民生委員や子ども食堂をされているかたなど、普段から子どもと関わっているかたも多く参加されていた。

自己紹介からはじめて、簡単に団体立ち上げの経緯などをご紹介。
高校や大学で不登校になったこと。しんどかったことなどを伝えながら、内容に入っていく。
 

講演で、いつも聞く質問がある。今日も同じように聞いてみる。

「自尊感情という言葉を聞いたことがあるかたー?」

年配の人が多かったこともあって、ほとんどの人は手を挙げなかった。
PTAなどで話すと、7割から8割くらいのかたが手を挙げる。

「自尊感情という言葉がだいぶ浸透してきたなぁ」と思う一方、会場の様子を見て、「まだまだ知られてないな」と、感じた。
 

普段どんな活動をしているかをご紹介し、子どもを取り巻く社会について説明をしていく。
統計データをあげて、子どもたちが自信を持てていない社会について伝える。
 


 
 

たいていの人たちは、このデータにショックを受ける。

「こんなに日本の子どもは、自信を持てていないのか!?」と。

諸外国に比べ、日本の子どもたちは全く自信を持てていない。
“謙虚さ”が美徳と言っても、この数字は低すぎる。

僕はデータを見ながら話をする。

「みんな問題だって言うんですよ。この数字を見て。
でもね、誰もこの数字を変えようとする人がいなかったんです。
この結果に、みんな憂うけれど、実際に改善しようとしていなかった。
いや、していたのかも知れません。
でも、僕はその活動を知らなかったし、そんな人にも出会わなかった。
だから、この活動をしようと思ったんです。
子どもが自信を持てていない社会を変えたいと思って、8年前に活動を始めたのです」

 

深く頷いてくれる人。
あたたかいまなざしをくれる人。

熱心に耳を傾けてくれる人たちがたくさんいることで、僕は話しを続ける。
 

「社会の希薄化や核家族化によって、子どもと関わる大人が減っています。
子どもを見守る人が少なくなっている。
結果、子どもは親の目を気にするようになっています。
親に“あなたはダメ”と言われたら、他に守ってくれる大人がいないのです。
だから、子どもたちは親からの批判にとても敏感。
できれば怒られたくない。見放されたくない。
親の言うことをちゃんと聞く“良い子”が増えているのは、このような社会的な背景があるのです」

 

子どもを取り巻く社会を話したあとは、自尊感情について具体的な話になっていく。

褒めることの弊害や優しく見守ることの危険性などを伝え、どうすれば子どもの自尊感情が高まっていくのかを伝える。

専門的になり過ぎるとわからないので、わかりやすく、例え話を入れながら、僕はできるだけ丁寧に言葉を紡いでいく。

来てくれた人たちがみんな「よく分かった」と理解して帰ってもらえるように、理論的なことと具体例を交える。
 

自尊感情の説明が終わり、次は「自信」について説明をする。
「僕ね、いつも思うのです」と言って、会場を見渡す。

「よく、みんな言うのですよ。“子どもが自信ないのです” “ 自信を持って欲しい” と。
でも、その人たちに“自信ってなんですか?”と聞くと、明確な答えがない。
みんなわかっているようで、自信ってわかっていないんです。
感覚ではわかっているけれど、正確な意味としてわかっていない。
わかっていないものを高めることって、できないんですよ。
だから、まずは“自信ってなにか”をちゃんと知りましょう!」

 

そう言って、1つの図を見せる。


 

「自信は、この3つから成り立っています。自尊感情が基礎の部分。
そこから上にあがっていく。
これを全てまとめて、皆さんは“自信”と言っているのです。
だから、まずは分けて考えましょう。
皆さんが普段思っている“自信”とは、どれでしょうか?」

自尊感情は、元々は心理学の用語。
難しいし、わかりにくい。
ざっくりでも良いから、わかりやすく、誰でも理解できるように伝える。

 

気がつけば、終わりの時間まであと10分だった。
ほぼ90分間、ノンストップで話し続けていた。

話したいこと、伝えたいことはたくさんあって、時間が全然足りなかった。

どこまで伝わっただろうか?
参加してくれた方々は、満足して帰ってくれたのだろうか?

不安に思いながら壇上を降りる。
 

出口で参加者の方々を見送る。

「わかりやすかったです」「すごく良かったです」と、声をかけていただく。
お世辞かも知れないけれど、その言葉にすごく救われる。

 

講演活動というのは、不毛だ。

教室だと、生徒の成長を見ることができる。
イベントやワークショップだと参加者がどんなことを感じ、なにが得られたのかを知ることができる。

しかし、講演は違う。
なにを得られたのか、本心から満足しているのか計ることができない。
たった1枚のアンケート用紙でしか、感想を知ることはできない。

僕は、講演が終わって、スッキリして帰ったことがない。
常にモヤモヤして、「どうだっただろう……」と、重い気持ちのまま帰途につく。

ハッキリ言って、講演の仕事は好きではない。
たくさんの人に伝えるのは、本当に難しいし、効果がわかりにくい。

でも、僕は率先して講演活動をしている。
1件でも多く講演の仕事をしようと思っている。

正直、時給で換算すると講演活動は、とても安い。
僕は同じ講演テーマであっても、会場や参加者によって内容を変えている。
つまり、スライドをゼロから作っている。

内容を考え、スライドを作る。

「2時間くらい話して講演料が稼げるならいいですね」なんて思われるけれど、そんなラクなことではない。

野球選手が試合に出るだけで給料を稼いでいるのではないように、僕たちも講演時間だけでお金をいただいているわけではない。

考える時間やスライドを作成する時間を考えると、そこまで割の良いものではない。

にも関わらず、どうして僕が講演活動を大切にしているのだろうか。
率先して講演へ行くようにしているのか。
 

その答えは、“吸血鬼”にある。
吸血鬼に噛まれると、噛まれた人も吸血鬼になると言われている。

僕は、たくさんの吸血鬼をこの社会に解き放ちたいのだ。
別に本当に血を吸うわけではない。
まるで吸血鬼のように、自分たちの仲間を増やしたいのだ。
 

自尊感情は、根っこだと僕は思っている。
どれだけ才能があり、能力が高い子であっても、強い風が吹けば簡単に倒れる。折れてしまう。
事実、僕自身も、他人からは自信があるように思われていたのに、簡単にポキッといってしまった。

自尊感情の大切さを知ってもらい、どのようにすれば自尊感情を高めることが出来るかを伝えたい。
 

僕たちがどれだけガンバっても、関わる子どもの数は知れている。
1人1人の子どもに噛みついたところで、その人数は微々たるものだ。

しかし、学校の先生や地域の人たちが、子どもをどんどん噛んでいったらどうだろうか?

一瞬にして、世界は吸血鬼で溢れることになる。
自尊感情が高い子どもたちで満たされる。

だから、僕は講演を通じて、子どもと関わる大人を噛んでいるのだ。
自尊感情について伝え、僕たちが血のにじむようにして得た知識やハウツーをどんどん教えている。
自分たちだけでやっていても拡がりがないからだ。

それが、苦しくても、大変でも、好きじゃない仕事でも、僕たちが講演活動に力を入れる理由だ。

 

今日も、僕たちは、牙を磨き、自尊感情を理解した吸血鬼を増やしていく。

講演に関することは、こちらから

 

(注意)
当然ですが、僕は本物の吸血鬼ではありません。
子どもを噛むこともしませんし、血も吸いません。
嫌いなものはトマトジュースです。

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田中 洋輔

田中 洋輔

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒 好きなものは、Mac/ライフハック/ラーメン プロ野球選手を目指すも、強豪校へ入り挫折し不登校に。大学に進学するも、引きこもりになる。周りの支援で復活。「自分のようにしんどい思いを子どもたちにさせたくない」と思い、2009年、学生時代にD.Liveを立ち上げる。不登校のときの話しや自尊感情(自己肯定感)に関する講演や研修をおこなう。夢は、「能力や環境に関係なく、全ての子どもが自分の未来に期待出来る社会をつくる」こと。学生時代は、お笑い芸人として漫才をしていた過去をもつ。