どうして学校へ行けない彼は、絞り出すように「勉強がしたいです…」と言ったのか?〈昼TRY部の徒然日記〉
「勉強、したいんです」
彼は、小さな声で、でも力強く言った。
決意の言葉を聞き、僕は心の中で大きく頷いた。
「よし! きた!」
4ヶ月前のこと。
彼のお母さんから相談を受けた。
来年受験生になるものの、学校へ行けていないこと。
家の中でもしんどそうで、荒れることもあること。
将来についても心配だし、今の状況も見てて辛いということを話してくれた。
何度か相談を受け、話しを聞く。
状況が掴めたところで、お母さんに提案してみた。
「本人に会わせてくれませんか?」
後日、連絡が入った。
「外には出たくないので、うちに来てくれるなら大丈夫とのことです」
彼との出会いは、そんな経緯だった。
家に伺い、話しをする。
彼は、サッカー部で運動が好きな少年。
でも、今は他人の目を気にして、外へ出ることができていない。
ゆっくり話を聞いていると、好きなことがたくさんある。
マンガも映画も好きだし、ドラマも見ているという。
話を聞き、「この子は、きっと大丈夫だ」と思った。
そして、彼が学校へ行けていない理由を分析していく。
なぜ、行けないのだろう?
なにが彼にとって苦しいのだろう?
インタビューや取材にならないように、雑談をしているように聞いていく。
「学校でイヤなこととかある?」
「なにかキッカケとかあった?」
でも、彼は「わからない」と言う。
学校へ行きたい気持ちはあるし、「絶対に行きたくない」と思うこともない。
出来れば部活に参加したい。サッカーがしたい。
友達も「早く帰ってこい」と言ってくれる。
でも、「行こう!」と思うと、お腹が痛くなる。
どうしても、行くことができない。
月曜日にガンバって行っても、後が続かない。
帰ってくると、とてもしんどく感じてしまう。
彼は、すごく焦っているように見えた。
中学3年生になると、嫌が応でも受験が迫ってくる。
進路を迫られる。
学校へ行かないことで、勉強はどんどん離される
これまで、塾にも行っており、勉強もそこまで出来ないわけじゃなかった。
けれど、学校へ行けなくなり、勉強もしなくなった。
塾にもだんだん行かない日が続き、今では全く行っていなかった。
「やらなきゃ!」と思うのに、体が言うことをきかない。
恐怖に出会って、体がすくんで動けないように。
一通り話を聞いて、僕は彼に宿題を出した。
「1ヶ月間、学校へ行ってはダメだよ」
この人は、いったいなにを言っているんだろう?
もしかしたら、彼はそう思ったのかも知れない。
不思議そうな顔をして、首を傾げた。
僕は続けて話す。
「キミが今、とてもしんどいのは、行きたいのに行けないからなんだ。
行きたいと思っているのに、体は動かない。言うことを聞かない。
すると、こう思うだろう。
“ああ、自分はどうしてこんなにダメなヤツなんだろう”と。
キミは、自分をずっと責めている。
自分で自分がイヤになっている。
だから、まずは自分自身をちゃんと受け容れることから始めよう。
焦らなくてもいい。
まずは、1ヶ月。学校に行くことをやめよう。
毎朝、起きたときに“学校へ行かないと”と思うことをやめるんだ。
とにかく、家の中で楽しく過ごすことから始めてみよう」
僕はそう言うと、彼と家でどれだけ楽しく過ごすか計画を練った。
見たい映画やマンガを一緒に考え、僕は彼の家をあとにした。
それから、彼は少しずつ変わっていった。
家の中でも笑顔が増え、家族とも楽しそうに話すようになった。
久々に外へ出て、本屋で欲しい本を買う。
アマゾンプライムで、映画を見る。
気になったマンガを読み始める。
はた目から見ると、「いや、遊んでいるだけじゃないか」と思うかも知れない。
しかし、これは大きな変化だ。
「今の自分であっても大丈夫」と彼は、少しずつ、学校へ行けていない自分自身を受け容れていったのだから。
3ヶ月がたった頃。
いつものように、彼の家へ行って話をしていたときだった。
彼が言った。
「勉強、したいんです」
「学校へ行かないことで、勉強がどんどん遅れています。
まだ、学校へ行くことは出来ないけど、せめて勉強だけはしておきたいのです」
初めて会ったときのうつむきがちだった彼の顔は、もうそこにはなかった。
強く、意思のこもった目をしていたのだ。
そして、家庭教師の下で勉強へ取り組むようになった。
僕は、「次のステップへ進むときが来た」と思い、彼に昼TRY部へ誘った。
彼の内面は、間違いなく変化している。
「これならきっと大丈夫だ」と思ったのだ。
初めは、「学校へ行けない」という自分への負い目があった。
しかし、家で楽しく過ごすことで、「自分であっても大丈夫」という小さな自信を得ていった。
自信が生まれると、意欲が出てくる。
そして、彼は「勉強がしたい」と言ったのだ。
スラムダンクの三井寿のように、「勉強がしたいです……」と。
「まぁ、行けたらいきます」
彼は、昼TRY部の提案に対して、曖昧な返事をした。
そりゃそうだ。
今まで、ほとんど外へ出ることが出来ていない。
近くのコンビニに行くのでも顔を隠したがるのだ。
昼TRY部までは、電車で行くことになる。
どこかで誰かに会うかも知れない。
なにか言われたらどうしよう。
びくびくするのも、当然だろう。
でも、数週間後、彼は来た。
たった1人で、電車に乗って、やってきた。
「来れた!」というのが、自信になったのかもしれない。
嬉しかったのだろう。
彼は、いつもよりも冗舌で、好きなゲームについてずっと語っていた。
その後、何回かは来られなかった。
「やっぱり、しんどかったかな」と心配になって、お母さんに聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「『あかん。朝に起きられへんから、行かれへんかったわ。
これからは、前日は早めに寝ないとあかんなぁ』と、言っていました。
『髪も伸びてきたし、散髪にも行こう』って言っているのですよ」
彼は、イヤで来なかったわけじゃなかった。
ただ、朝が起きられなくて、来れなかったみたいだ。
先週からは、毎回来るようになってきた。
お母さんも言う。
「もうね、目に見えて元気になっているんですよ。良く喋るし」
先日、担任の先生が家庭訪問に来たとき、驚いたそうだ。
「え? キミ、元気やん?」と。
先生は、こんなことを言ったそうだ。
「ごめん、正直に言うと、不登校だからもっと暗い感じだと思っていたわ」と。
小さな自信を得たことで、彼は少しずつ変化している。成長している。
外へ出られたことが、また一歩、彼の自信に繋がっている。
ふと隣を見ると、疲れた顔をしながら数学の問題を解く彼の姿が見える。
「ちょっと疲れたので、外に散歩へ行ってきます」
そう言って、上着を羽織る背中は、とてもたくましく見えた。
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