TRY部は、塾だけど、陸上部です。〈子どもの自主性を伸ばす教室〉

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2014年3月。
TRY部は、生徒2名から始まった。
カリキュラムも定まっていないまま、スタートをした。

この教室は、日本のどこにもないところ。
 

TRY部を立ち上げようと思ったときの話。

“勉強が苦手な子は、自信を持っていない”というデータを知って、僕はショックを受けた。
「勉強ができないだけで、自信がなく、自分の可能性を閉ざしているのだとしたら、あまりにももったいないじゃないか」と、僕は思った。

勉強に苦手意識がある子は、塾に行っても変わることは難しい。
ただ行っているだけ。

真面目に聞かず、上の空。
勉強に嫌悪感がある子は、どうしても勉強への意欲が持てない。

知り合いの塾の先生が言っていた。
「塾って言うのは、勉強の成績を伸ばすところであって、勉強の意欲を高めるところではないんです」

それを聞き、僕は「TRY部、やらないと!」と、強く思ったのだった。

塾で大切なのは、進学率だ。
いかに良い学校に入ったのか、実績がモノを言う。
それが次の集客に繋がるから。

だから、言い方は悪いが、「やる気のない子は、いらない」のだ。

全ての塾がそういう方針というわけではもちろんないだろう。
どんな子にも、熱心に教えている塾を僕は知っている。
なんとか意欲を出そうと、子どもたちの興味を持つ授業を研究している先生も知っている。

でも、業界全体を見たとき、塾というのはあくまでも、「成績を伸ばすところ」なのだ。

極端な話、自習室に閉じ込め、無理矢理に勉強させてでも、成績が伸びればいいのだ。
(僕は、そういう塾に通っていた。タイムカードがあり、勉強した時間は全て管理されていた)

ハッキリ言って、この方針には、合う子と合わない子がいる。

素直で、そこまで勉強に嫌悪感を持たない子には、この環境がすごく合う。
「わかる!」という嬉しさが、更に勉強への意欲をかき立ててくれる。

しかし、「勉強が嫌い」と思っている子には、ただしんどいだけ。
まるで嫌いな野菜を無理矢理に食べさせられるところみたいに。
(僕が行っていた塾は、窓から逃げ出す生徒がいた)
 

 

以前、授業で行った学校で小学生が言った。

「私、勉強ができないから、パティシエになるのは無理だと思うの」

子どもは、「勉強 = 自分の能力」と思うことがある。
「勉強ができない = ダメ」と思ってしまうのだ。
勉強ができないだけで、自分を全て否定する。
「私はなにをやってもダメなんだ」と思う。

それほど、子どもたちにとって勉強が占めるウエイトは重い。

 

「勉強を教えるのではなく、違うアプローチをして、結果的に勉強への意欲を高めることができないだろうか?」

そう思ってスタートしたのがTRY部だった。

世の中に、そんな教室はほとんどなくて、試行錯誤の連続。

初めに来てくれた生徒は、今までの活動に参加してくれていた保護者にお願いして、体験で来てもらった。

1人の中学生は、「テストで点数取ることの意味がわからへんねん」と言い、全く勉強をしていなかった。
カリキュラムを手探りで作っていき、彼の意欲を伸ばすために、いろんな授業を試していった。

すると、「意味がわからん」と言って勉強の意欲を持てなかった彼が、次第に勉強をするようになっていった。

「あんな、どんな子にも寄り添えるような先生になりたいねん。
おとなしい子も、目立たない子も、みんなに手を差し伸べて、良さを伸ばしてあげられる先生に、俺はなりたい」と言い、
教職課程がある大学を探した。

TRY部へ来たときには、「夢とか別にないし」と言っていた子が、そんなことを言うようになったのだ。

「立命館とか良さそう。やっぱり、大学入るためにも、ちゃんと勉強しないとアカンなぁ」と言って、
中学3年生の秋から苦手科目だけ塾へ行って学ぶことになった。

お母さんは、「塾は、学校の延長だし、特に行かせようと思っていません」と言っていたが、
彼が説得をして、通わせてもらうことになった。

この保護者のかたは、TRY部へ行かせる前に悩んでいた。

「子どもの可能性を考えたら、勉強ができたほうがいいと思うんです。
私が子どもの可能性を閉じることはしたくない。
でも、塾に行かせても仕方ないと思っています。
やっぱり、子どもには自分で決めて、自分の人生を生きていって欲しいんですよね」

まさか息子が自分から「塾へ行きたい」と言うとは思ってなかったかも知れない。
しかし、彼は自分で決断し、見事志望校への合格を果たした。
僕たちは、ほとんど勉強を教えていないのに。

僕は、彼を見ていて、改めてTRY部という場所がどんなところなのかを考えてみた。
 
 

すると、思ったのだ。

「陸上部だな」と。

僕は、ずっと野球をやっていた。
野球は、冬になるとボールを使うことはなく、ひたすら走り込みばかりをおこなう。

このとき、僕たちは「陸上部だ」と言う。
陸上部のように走るから、このように言うのだ。

TRY部は、なにかテクニックを身につけるところではない。
ボールの投げ方や打ち方を教わる、スキルを学ぶところではない。

ただひたすらに、下半身を鍛えるところだ。

下半身が強くなれば、速いボールが投げられる。
遠くまで打球を飛ばすことができる。

子どもにとっての下半身が、意欲であり、自信だ。

下半身がしっかりしていれば、野球でなくても、バスケットボールやバレーボール、バドミントン。
どんな球技にも応用できる。

意欲や自信があれば、どんなことにも挑戦することができる。
得意なこと、やりたいことに取り組むことができる。

そして、TRY部が陸上部である理由は、もう1つある。

陸上部には、たくさんの種目がある。
短距離や長距離、ハードル、砲丸投げ、高跳び。
その子の特性によって、種目を選ぶことができる。
得意なことを伸ばすことができるのだ。
 

TRY部も同じ。
1人1人の特性に合わせ、その子が得意なこと、好きなことをとことん伸ばしていく。
活躍出来る場を作っている。

そうすると、タイプの違う子たちが、いろんな活躍をするのだからおもしろい。

6年生の男子は、本格的にプラモデルを作りたかった。
そこで、1ヶ月をかけてプロジェクトとして取り組んだ。

東京旅行にいったついでに、大きなプラモデル屋へ行って、材料を購入。
Webサイトを参考にしながら、スプレーで色を塗り、地面もつくった。
プラモデルだけではなく、周りの装飾品なども自分で作成をした。

 

5年生の男子は、「ゲームを買ってもらう」というプロジェクトを立ち上げた。
親に言っても、「ダメ」と言われる。
笑顔で毎日親に挨拶をする。機嫌をとる。

いろいろ考え、試してみたがうまくいかなかった。
悩んだあげく、彼は1つの策を考案した。

手紙を書いたのだ。

「背景 お母さんへ」と、ゲームが欲しい思いを紙にしたためた。
言葉ではうまく伝えられないと思ったのだろう。
彼は、文章を書くのが苦手なのにも関わらず、手紙を書いた。
まるでラブレターを書くかのように。

お母さんは、寝る前に手紙が置いてあるのを見つけた。
丁寧なことに、「読んだらここにサインをしてね」という項目まで作ってあったのだそうだ。

 

「あんなんされたら、買うって言うしかないよ」

後日、保護者のかたに笑いながら怒られた。

しかし、このプロジェクトはここで終わらない。

少し浮かない顔をして、彼はTRY部にやってきた。
聞いてみると、
「いやぁ、ゲーム買ってもらえることになってんけど、ほんまにいるのかなって思うねん。
なんか、自分だけで使うだけやし、それほど必要ないのかなぁって思ってきた。
それやったら、デジカメのほうがいいかもなぁと思うねん。
デジカメやったら、みんなで旅行したときにも使えるやん。
みんなのためになるし」

悩んだ彼は、生徒たちにアンケートをすることにした。

「僕は、ゲームを買ったほうがいいですか? それとも、デジカメが良いですか?」

“自分で決めたらいいやん”と思ったけれど、
周りに意見を仰ぐというのは、今まで彼がやったことはなかったので、そこでも成長を感じることになった。

アンケートの結果も参考にし、「やっぱり、みんなで使えるほうがいい」と言って、彼はデジカメを買ってもらうことにした。

出発点は、どこにでもあるような「ゲームが欲しい」だったのに、
このプロジェクトで、彼は一回りも二回りも成長したようだった。

ある日、NHKから「「取材をしたい」と連絡が入った。

記者の人は、半年以上も教室へ通ってくれて、取材をしてくれた。
そして、1人の小学生へ密着取材をすることになった。
 
 

小学6年生だった彼は、すごく真面目な少年。
しかし、その真面目さが災いしていた。
完璧主義で、なにごともキッチリこなせないと気がすまなかった。

ストレスがたまり、学校へ行けない日もあった。
「どうしたらいいんだろう」となっていたとき、保護者のかたがTRY部を知り、教室へ通うことになった。

そんな彼だったのに、TRY部へ来て1年近くがたったときのNHKでのテレビインタビューで
「いやぁ、なんか理想の自分とかどうでもいいんです」と、嬉しそうな顔で答えていた。

完璧主義を手放し、目の前のことに集中してガンバることができるようになった。

あれほどしんどかった学校も、ほとんど休むことがなくなった。

“自信を取り戻す教室”として、NHKの『おはよう関西』に取りあげられたTRY部には、
学校へ行けない不登校の子が来ることも多い。

別に「不登校の教室」にしているわけじゃないけれど、やはり意欲が持てないということで、学校へ行けていない子が来る。

「ここに来たら学校へ行けるようになるって聞きました」と、保護者のかたから問い合わせをいただく。

彼が来たのも、そんな縁からだった。 

中学3年生の男子。
中学校は、ほとんど行けていない。

来たときは、けだるそうにしており、数ヶ月は授業へ参加することもなく、机に突っ伏していた。

少しずつ話しをしてくれるようになり、TRY部へ来て半年ほどがたったとき。
「やっぱり、俺は学校行けるようになりたい」と言い出した。
そして、「あんな、コミュニケーション能力が自分には足りないと思うねん」と言う。

それならばということで、1人旅へ行かせることにした。

彼は、アニメが好きで、その現場が長野県だったので、そこへ行くことになった。

帰ってくると、今まで見たことがないほど嬉しそうな顔をしており、「めっちゃ楽しかった」と言う。
そして、「大人とは話ができる自信がついた」と胸を張った。

携帯電話も地図も持たず、行く道中では、たくさんの人に道を聞き、話をしたのだそうだ。

彼は、高校へ進学すると、生徒会へ入り、テニス部にも参加して、高校生活を満喫している。

1人の不登校の中学生は、楽しそうに教室へ来ていた。
学校の担任の先生が見学へ来て話してくれた。

「この子、こんな顔して笑うのですね。初めて見ました」とまで言うくらい、TRY部では他のところで見せない顔をしている。

先日は、小学5年生女子の保護者さんからこんなメールが届いた。

「うちの子、TRY部が楽しくてしょうがないみたいです。
スタッフの方々のおかげだと思います。ありがとうございます。
子どもにとって、学校以外の居場所があるのって本当に大事ですね」

 

他の女子は、授業が終わってもずっと帰らず、課題に取り組んでいた。
保護者のかたがお迎えに来ても、「もうちょっと」と言い、作業を続ける。
結局、帰ったのは授業が終わって1時間ほどがたった頃だった。

内気で、話をするのが苦手だった中学生の男子。
自己紹介も「いや、いい」と言って、人前で話すのがとにかくダメだった。
口数も少なく、あまり話さない。

しかし、TRY部へ来て、1年以上がたった先日の話。

希望の高校へ入学したものの、いろいろな不安が彼にはあった。

保護者のかたから、「すごく疲れて学校から帰ってきました。なんだか、いろいろ気が重いみたいです」と、連絡をもらった。

すごく疲れて帰ってきていたのにも関わらず、「TRY部には行きたい!」と言い、授業へやってきた。

初めの頃、TRY部に来たときはあまり話さない子だった。
でも、今は違う。

「いろいろ高校しんどいわ−」と言い、抱えている不安や心配事をどんどん話してくれる。

なにより驚いたのは、「俺、友達作るの苦手やから、やっていけるか不安やわ」と、自分が出来ないことを素直に話してくれたこと。

自分自身とキチンと向き合えている姿を見て、とても嬉しくなった。彼が帰り、僕は心躍りながら保護者のかたへメールをした。

「大丈夫ですよ。ちゃんと、向き合えています。きっと、大丈夫です」

 

TRY部に来た生徒は、みんないろいろな変化を見せてくれる。

塾だったら、成績が伸びる。
ピアノだったら、上手に弾ける。

だけど、TRY部には、特定の型がないので、いろんなところで子どもの成長が見られる。

ピアノの練習が苦手だった生徒は、「ああああ、ピアノの練習できるようになりたいー」と叫んでいた。

彼は、自分で試行錯誤をして、ある方法を思いついた。
練習をするとき、友達に電話をして、自分の練習模様を聞いてもらうことで、ピアノの練習が楽しくなった。

「なにもやりたいことないし」と言っていた子は、自ら“数学検定”を見つけて、検定試験に向けて必死に勉強をしていた。

僕たちスタッフは、子どもたちが活躍する場をただ作るだけだ。

場を与えたら、あとは勝手に子どもが夢中になる。
どんどん取り組んでいく。成長していく。

僕は、そんな姿を見るのが、たまらなく好きだ。

保護者のかたから、先週こんなメールが届いた。

「本当にイキイキとしていて、とにかく色んな経験を積んでいきたいと思っているようです。
どんな風に成長していくか、私もワクワクしています」

そう。子どもの成長を見守るのは、楽しい。
大人が想像していないスピードで子どもは成長する。

いつだって、僕は子どもたちに驚かされる。

TRY部には、塾が合わなくて来る子もいる。
学校へ行けないから来る子もいる。
もっと活躍する場、好きなことに取り組みたいからと来る子もいる。

ここは、陸上部だ。
短距離が得意な子。長距離が得意な子。遠くへ飛ばすのが得意な子。

いろんな子が来て良い場所だ。

それぞれの良さを最大限に発揮させるのが、僕たちスタッフの使命だと思っている。

次は、どんな子に会えるのだろうか。
どんな成長ストーリーを見ることができるのだろうか。

今から、楽しみで仕方がない。

 

【TRY部 説明会 おこないます】

「うちの子ども行かせて見たいな」
「TRY部のこと、もっと詳しく知りたいな」

そんなかたへ向けて、説明会をおこないます。

ブログには書ききれかった、具体的な授業内容についても知ることができます。
 

 

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5月15日(月)5月19日(金)

ご不明点等ございましたら、こちらにお願いいたします。

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田中 洋輔

田中 洋輔

1984年 大阪生まれ 立命館大学文学部卒 中学時代は、部活に打ち込み、勉強では学年で常にトップ10以内。 しかし、中学3年生のときから学校がしんどくなり、誰とも話さなくなる。 野球選手を目指し、大阪の野球強豪校へ行ったものの、自信を失い退部。そこから学校へ行かず、河川敷で過ごす毎日をおくる。 浪人して立命館大学へ入学したものの、なにをしたいかが分からなくなり、行く意味を失う。1回生の夏から1年ほど、京都の下宿で引きこもる。 友人の支えもあり、復活。政治家の秘書やテレビ制作などのインターンをおこない、期間限定のカフェも開く。「自分のようにつらい思いをさせたくない」と思い、D.Liveを立ち上げる。 フリースクールや自信を取り戻す教室を運営。不登校に関する講演や講座もおこなっている。 京都新聞にして子育てコラムを連載中。 詳しいプロフィールはコチラから