小学生が「この教室は、シェアハウス」だと言う意味とは?
「TRY部は、シェアハウスみたいなところやねん」
小学6年生の生徒が “TRY部とは、どんな場所?”と聞かれた質問にこのように答えた。
いつもの授業日。
しかし、この日は少し勝手が違った。
後ろには、大人が数人。
見学へ来た人たちがいる中で授業ははじまった。
普通、大人がいたら緊張するのが子どもだろうなって思うけれど、ここの生徒は慣れたもの。
「あっ、今日は見学来てるんやなー」くらいで華麗にスルーする。
中田英寿のスルーパスくらいキレイにスルーをする。
マクドナルドのドライブスルーでなにも頼まずに通りするくらいにスルーをする。
せっかく見学の人たちが来ているのだから、その人たちを巻き込んだプログラムを作りたいなと思って、スタッフで計画を練る。
「こんなんどうかな?」
「おお!めっちゃおもろいやん!」
「やろう、やろう!」
決まった企画は、『ラジオ』だった。
「オールナイトニッポンをやろう!」
(もちろん、パロディ。場所は、有楽町ではなく草津だし、深夜に収録もしていない)
キッカケは、前の週に生徒が言った発言。
「そろそろ座談会がしたい」
TRY部では、1年に1度くらい座談会といって、みんなで振り返る機会をつくっている。
教室へ来て変わったこと、成長したことを生徒だけで話し合う。
もうすぐ、春休みになり、学年が変わる。
いいタイミングだし、彼の声を取り入れて座談会をやることにした。
せっかくだし、ゲストの人たちにも質問をもらいたいなぁと思って考えたら、「ラジオだ!」となった。
見学へ来た人たちに内容を伝えるとノリノリで、いろんなペンネームで質問を考えてくれた。
オールナイトニッポンと同じように、“ビター・スウィート・サンバ”をかける。
「トゥルットゥ〜♪」とメロディが流れ、少したってからみんなで、どなり。
「TRY部のぉ〜(ここでためる)オールナイトニッポンっ!」
(ちなみに、ここをみんなで合わせるために何回もリハーサルをしていた)
事前に決めたメインパーソナリティである高校生が進行していく。
「いやぁ、はじまりました〜」なんて感じで、全然練習していないのに、ラジオっぽく入ってくる。
まずは、自己紹介。
それぞれが簡単に挨拶をしていると、ディレクターを演じるスタッフからお便り(メモ)が渡される。
「おっと、早速メールが来ましたね。ペンネーム おなかすいたさんから。ありがとーございまーす」
もう、さながらラジオのパーソナリティみたいにスラスラ話す。
達者すぎて思わず笑ってしまうくらいだった。
視聴者(もちろん、見学に来た人のこと!)からもらった質問に生徒たちは、しっかり答えていく。
「そんなこと思ってたのか!?」と、スタッフが感嘆することも口にする。
ここでは、一部をご紹介。
Q : TRY部ってあなたにとってどんな場所?
・家族でも友達でもないけど、なんでも言い合える場所。やりたいことがあったら言うし、
失敗したことでも話せる。どんなことを言っても許されるって雰囲気がある。
「それは無理だよ!」と言われるのではなく、「じゃあ、どうしよう」と話し合える。
・ありのままの自分、自分の素が出せる場所。
・安心してなんでも言える。みんなが同じ目線で考えてくれる。
・自分1人だけで考えて誰にも言えなかったことも、ここなら言うことが出来る。
Q : TRY部がなかったらどうなってたと思う?
・ここがなかったら今、学校も行けてないし、バスケもきっと辞めてる。
ほんとここがあったから救われた。
・きっと学校へ行けていない。
・今はイキイキと話しているけれど、それはここのお陰であって、TRY部へ来る前はめちゃめ
ゃ暗い人だったし、来てなかったらきっと今も暗いままだと思う。
(この日、私立高校の合格発表で第一志望の高校への進学が決まった生徒)
・今日の合格は、きっとなかった。
Q : あなたにとってのTRY部とは?
・自分の素が出せる場所
・シェアハウス。
いろんな人がいて、いろんな性格の人がいて、その人たちとみんなで分かち合える。
そんな場所。
・TRY部は、TRY部。
別の場所じゃない。たとえようがない。
どこでも味わえるものじゃない。
だから、TRY部はTRY部。
・家と学校の間くらいの場所。
生徒のコメントを聞いて思ったこと
子どもたちがイキイキと話す様子を見て、ジーンときている自分がいた。
たまに「TRY部ってどんなところ?」と聞くことはあっても、こうやってじっくりと生徒が教室について話す機会はない。
「こんなこと思ってたのか!」と思うようなことばかりで、胸が熱くなった。
子どもたちの居場所に。
学校でも家でもない、サードプレイス(第3の場所)を作りたい。
生徒に言ったことはないこの思いが、ちゃんと伝わっていたのがなにより嬉しかった。
「教え方がうまい」
「スタッフがステキ」
「すごく勉強になる」
そんなスペック(性能や機能)ではなくて、居場所として認識されているのに手応えを感じた。
思春期や反抗期になると、親や先生、友達にも話せないことも増えてくる。
自分の中でモヤモヤするけれど、それを話す人、話せる場所がない。
僕自身もそうだった。
「TRY部は、シェアハウス」という発言を聞いたとき、“なるほど”と思わず膝を打った。
学年も違う。
抱えている悩みも違う。
スタッフもそれぞれ。
決して強制することはなく、自由。
けれど、みんながしっかり自分と向き合い、なりたい自分(目標)へ向かってガンバれるところ。
TRY部をはじめて、そろそろ2年。
意図してつくったきたこの空間、雰囲気。
子どもたちの言葉を聞いて、TRY部の必要性を改めて感じた。
「ここがなかったらきっと学校へ行けてない」という言葉は重い。
まだ、届けられていない、しんどさを抱えている子どもたちに、僕たちはちゃんとTRY部を紹介していかないとならない。
このラジオで感じたのは、“僕たち以上に生徒がTRY部という場所を大事に思っていてくれている”ということ。
「やってきて良かった」という満足感もあったけれど、それ以上に使命感が今までよりも沸いてきた。
ドラえもんの空き地がなくなり、子どもが異学年と関わり合う場所、思ったことを話せる人がいない今の世の中、TRY部のような子どもたちの居場所はとても大切。
そろそろ新規生徒募集もはじめる。
まだ、見ぬ子どもが、来年同じ場で、座談会で嬉しそうに「TRY部に来て良かった」と話してくれる姿を想像すると、生徒集客は大変でイヤな仕事ではなく、子どもたちの未来を、子どもたちの笑顔を創っていくワクワクする仕事になる。
これからどんな子どもに出会えるのだろうか。
どんなふうに成長するのだろうか。
どんなストーリーが生まれるのだろうか。
まるで遠足を控えた子どものように、そんな未来を想像すると、ワクワクして胸が高鳴る。
これから出会うキミたちに。
「ようこそ、TRY部へ。」